深夜近くのテレビでヒットチャートのような番組をやっていた。ある歌が耳に止まった。「これ、いいじゃない」と私がいうと、「百年に１人の声だといっている」とカミさんが解説する。むろん曲はすぐに次の曲に変わってしまった。その後、買い物をしていてこの歌が背後で流れることが１度あった。
　その歌が元ちとせ（ハジメ　チトセ）の「ワダツミの木」であると分かったのは少ししてからである。ヒットしているらしい。オジサン、オバサンにもファンがいるというので、私が好きになっても不思議はない。

　近くの石丸電気にＣＤを見に行った際、元ちとせのＣＤがあるかと見回した。あいにく見つからなかった。いい年をして「元ちとせのＣＤありますか？」とも聞きづらかったので、そのまま帰った。
　買えないときのインターネットである。最初に Yahoo で検索して、元ちとせのサイトに入った。ＬＰに相当するＣＤは出ていないことが分かった。シングル、もしくは短いアルバムは出ている。便利なもので、２０秒か３０秒の音楽サンプルをダウンロードして聴くことができる。どのアルバムを買おうかとあたりをつけた。次に Amazon.com のサイトで元ちとせでＣＤを検索してみた。３曲入った「ワダツミの木」のシングルと、５曲入った「コトダマ」というアルバムを注文した。５月２２日に新しいＣＤが出るというけれど、そちらはすぐに買えると思い、注文しなかった。数日して（つまり今日）、注文した２つのＣＤが届いた。

　ＣＤの演奏がすぐに終わってしまうことに不満はあるけれど、なるほど魅力的な歌手である。他の曲を聴いてみると、「ワダツミの木」は彼女を代表する曲というよりは、シングルでのヒットを狙った曲だと感じる。昔の例では、ユーミンの「あの日に帰りたい」、小椋佳の「眩暈」、オフコースの「サヨナラ」、といったところである。
　聴きながら別の１人の歌手を思い出した。このテンポ、この裏声。吉田美奈子のようではないか？　今どのくらいの人が知っているか、吉田美奈子は７０年代に活躍したシンガーソングライターという分類の歌手である。私は何枚かＬＰを買った。この人、自分のことを「ボク」という。天才少女と呼ばれた。雰囲気は矢野顕子に近い。あいにく時期がユーミンと重なったため、一般の人気は今ひとつだったけれど、注目度は高かった。「ケッペキ兄さん」のような一風変わった曲が印象に残る。消え入るような声で歌う「エアポート」などは素晴らしかった。何年か前、テレビで現在の吉田美奈子のコンサートを放映したのを覚えている。同じ調子で歌っていた。ＣＤを買おうと思いながら、あいにく買わずにいる。