ゴルトベルク変奏曲弦楽合奏版　(2006/12/13)

　先日の日曜に例によって薬のカワチに猫食糧を買いに行った。帰りに近くのイトーヨーカ堂に寄った。その４階には新星堂が入っている。ＣＤを眺めた。あまり買いたいＣＤはなかったが、ある種の惰性で、以前から時折目にしていた弦楽合奏版のゴルトベルク変奏曲のＣＤを買って帰った。税込みで１０５０円であり、安かったから買ったというのが本音である。
　家に帰ってこのＣＤをかけてみた。これが予想外に面白い。

　ゴルトベルク変奏曲はクラヴィールのためのバッハの曲である。家には何枚かのピアノ演奏のＣＤと、１枚のチェンバロ演奏のＣＤがある。グレン・グールドの８０年代の録音は昔カセットにエアチェックしており、まあ、聴こうと思えば聴ける。
　ゴルトベルク変奏曲は超有名な曲で、私も少なからず聴いてきた。私が持っている中でも、何れを聴いても良い曲とは思うが、正直言って、グールドの演奏を除けば、ハマるほどの魅力はないと思っている。バッハの曲には耳を奪われるほどの緊張感があるものだが、そうした緊張感はこの曲にはあまり感じない。例外をあげればやはり、グールドだろう。

　で、そのゴルドベルク変奏曲を弦楽合奏でやろうというこのＣＤにも、私は特に期待はしていなかった。弦楽合奏で演奏するとより散漫な感じになってしまうのではないかとも思えた。
　しかし聴いてみるとそうではない。かけはじめから面白い。最初のアリアから第１変奏に入るところは、急にダンス音楽のようになる面白さがある、と以前にレオンハルとのチェンバロ演奏を聴きながら気づいた。この演奏でもこの転換の面白さは同様である。
　弦楽のねちっこい音がクラヴィール曲だったこの曲に合うのかと疑問に思えたけれど、そこは演奏に工夫がされている。複数の弦楽器が使われることで音色に変化が出るのは、むしろ弦楽合奏の良さなのかも知れない。近代の弦楽の音のように響く箇所もあるけれども、概してバロック音楽の弦楽合奏風で（そりゃ当たり前だろうが）、普通の楽器を使っているだろうに気のせいか、バロックヴァイオリンのような響きに聴こえることもある。聴き所の第２５変奏のアダージョは、クラヴィールだと清冽な音が静かに響く箇所であるけれど、この箇所も弦楽の自然な音に置き換わっている。最後のアリアの前の第３０変奏で思い切り、感動的に音が鳴り響く。
　ＣＤの解説を読むと、この編曲を手がけて演奏もしているシトヴェツキーは、最初に弦楽三重奏にゴルトベルク変奏曲を編曲したらしい。そういえば弦楽三重奏の編曲版のＣＤが出ていたように思うが、シトヴェツキーの演奏かどうかは確認していない。ゴルトベルク変奏曲は２本の手でクラヴィール演奏をするには複雑だそうであるけれど、複雑さからいうと弦楽三重奏くらいがよいところのような気もする。
　解説を読んで面白かったのは、編曲して演奏しているシトヴェツキーがグールドの演奏に魅せられていた人だったという点である。この演奏がグールドの演奏と近いのかどうかは、私には分からない。
　このＣＤの１０５０円は安いよな、と思う。

ゴルトベルク・ヴァリエイションズ［弦楽合奏版］　シトヴェツキー（コンサートマスター）、ニュー・ヨーロピアン・ストリングス　WPCS-21209(0075597934120)

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