続々・猫 (2001/06/10)

　拙宅に猫が棲みついた。ちょうど１週間前からである。

　先週の土曜の夕方近く、庭先で娘２人とカミさんが猫をかまっている。見かけない猫だった。三毛である。尻尾が長く、その尻尾を直立させて起用に動かす。なぜか娘たちがその猫を気に入り、家の中に上げてしまう。餌をやる。猫歴のあるカミさんはこの猫が子供を産んだばかりである、と考えた。子供はどうしたのだろう、と話す。そもそもこの猫は野良なのか飼い猫なのか。実は近くに猫を沢山飼っているお宅がある。そこから来たのではないか、と想像した。この猫が母親なら子供の所に返さないといけないだろう、と私が話す。
　もともと私の娘は猫を飼いたいと以前から言っていた。私が反対している。猫が嫌いなのではない。が、死なれるのが怖いし、交通事情も良くない。近所では小さな犬が車にひかれて死んだこともある。猫は犬以上に遠近感がないから危ない。それに、猫がいたら家族で外出することはできないではないか。
　カミさんと相談し、猫は夜までは家におかない、と娘に話す。すると２人ともふくれてしまう。すごいふくれようだった。
　この猫が母親であるというのが気になった。カミさんの話によると、猫を沢山飼っている場合、他の猫の子供だとお腹をすかせた猫は食べてしまう、という。子供は仲間に食べられたのかも知れない。あるいは、飼い主が子猫を捨て、この猫は子供を捜しに出たのかも知れない。そんなことを想像しながら話した。
　夜になって娘が寝た後も、猫はカミさんの近くで横になっている。カミさんは、事情の如何を問わず、今夜は猫を家の外に出す、という。もし飼い猫なら帰るだろう。一晩置いても帰らなければ、その後に考えよう、と私も思った。
　夜中になって猫を家の外に出した。猫はニャーニャー鳴いてガラス戸を叩く。私とカミさんはそのまま寝る。
　布団の中でその猫の鳴き声が聞こえた。しばらくすると声は聞こえなくなった。

　次の日曜になって、家の傍を見ても猫は見当たらない。飼い主の家に帰ったのかも知れない。野良だったらどこかに行ったのだろう、と話す。何か寂しいような気がした。が、家族みんなで軒先に出ていると、車の下にその猫がしゃがんでいるのを私が見つけた。呼ぶとやって来る。娘たちは喜んだ。
　当然ながら２人の娘はこの猫を飼え、という。私も気が弱いので、まあ、飼うということで仕方ないか、と考える。
　ただし、この猫、近所の、猫を沢山飼っているお宅の猫かも知れない。そこでカミさんが子供と猫を連れて、その家を尋ねてみた。あいにく家に人はいなかったという。猫の家の隣のＮ山さんのオジさんの見立てでは、その猫はお腹に子供がいるだろう、という。そう言われて見ればお腹が大きいように見える。
　夜になってカミさんが、猫を沢山飼っている、というお宅に電話してみる。猫のことを聞いてみる。先方は「三毛猫は知らない」という。本当かどうか分からないけれど、嘘でも引き取るつもりはないのだろう。
　結局、飼う、ということで決まった。娘が喜んだ。

　次の月曜日、私は朝から仕事に出かける。昼頃にカミさんが近くの動物病院に連れて行く、という。
　仕事からの帰りに、いつもそうしているように私は大宮駅のホームからＰＨＳで家に電話した。猫はどうした、とカミさんに聞いてみた。動物病院でダニの処理と何かの予防注射をしたという。お腹に子供はおらず、子供を産んだばかりなのだと言う。不妊手術を勧められた、という。大宮駅から乗った混雑した電車の中で、不妊手術をするのがよいのかどうか、と私は考えた。生き物は自分の子供を欲しがるだろう。子供を作らせないのは、可哀想ではないか、と考えた。
　家に着いたら猫用の食品を家族が揃えていた。猫にはチーコという名がついていた。娘がつけた。動物病院の先生の話では、この猫は野良だろう、という。飼い猫なら病院に来ると身構えるのだそうだ。この猫はそうしなかった。栄養状態が良くないので、薬をもらって来たと言う。しばらくは多めに餌を与えてよい、といわれたらしい。
　不妊手術の件をカミさんと話した。医者は不妊手術を勧めた。その方が長生きする、というのだ。近所の猫を飼っている人もそういう。不妊手術をしないために早死にした猫がよくいるという。また、子供を産めば悲劇もある、とカミさんはいう。以前カミさんの実家で飼っていた猫は、子供が大きくなってむしろ子供に迫害されたのだという。

　この猫、チーコが叫ぶような鳴き声をあげるのを私は何度か聞いた。カミさんの話では、その声は子供に対する声なのだ、という。夜中に突然、そのような声を出す。ふとを目を覚まし、いるはずの子供を捜しているかに思えた。餌をもらって子供に持って行くような仕草も見せることがあったとカミさんがいう。何日か経つうちに、そのような仕草は見せなくなった。
　不妊手術はさせようと考えている。が、いつやるかはまだ、決められない。

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