蝉 (2001/08/24)

　我家の猫のチーコがある日、塀の近くで上を見ながら佇んでいた。どうやら塀に登ろうとしている。まずやや低いフェンスに飛び乗る、というほどの運動神経はないらしく、腕（前足）をフェンスにひっかけてぶら下がるような格好になる。娘がその姿を見ながら「あ、かっこ悪い。」　後ろ足をばたばたさせながらやっとチーコはフェンスの上に乗る。ついで門柱の上に立つ。近くにある木を見上げている。
　何をしているんだろう、と思って私はチーコに近づいてみた。木の上に蝉がいて鳴いていることに気がついた。どこにいるのか姿は見えない。が木の上の方から蝉の声は確かに聞こえる。
　私が家の中に戻ってしばらくしてチーコは蝉をくわえて家の中に帰ってきた。

　チーコは「狩り」をする。８月の前半までは、チーコはもっぱらトカゲをくわえて帰って来た。くわえてきたトカゲを口から離し、チーコは少し離れたところでトカゲを眺めている。トカゲは時折逃げようとする。が、その度にチーコは「腕」でトカゲを抑えるようにたたく。その挙句に食べる。全部食べることもあるし、尻尾ないし頭だけを残して食べることもある。トカゲの視点から眺めるならひどく凄惨な現場である。
　よくそんなにトカゲが近くにいるもんだと常々思っていた。が、８月も中旬になってからは、チーコが捕って帰ってくるのは蝉になった。トカゲを捕り尽くしたのか、いても出没しなくなったのか、その辺は分からない。
　同じ狩りでもチーコはトカゲは食べるけれど蝉は食べない。見た目からして蝉は美味しくはなさそうだ。ただ弄ぶだけである。他に食い物があるから蝉を食べないのかも知れない。食い物がなければ蝉でも食べるのかも知れない。何れにせよ食物連鎖と係わらないところで殺される蝉は可哀想な気がする。

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