猫缶 (2001/11/18)

　我が家に猫のチーコが棲みついて５ヶ月が経った。既に家の誰もが家の中には猫のチーコがいることを当り前と思っている。この間、チーコにはさしたる変化はない。あえて変化といえば食事の好みが段々贅沢になったことくらいだろう。

　チーコを最初に家に入れたときには確かにやつれていた。私の家で猫歴があるのはカミさんだけであり、しかも飼っていたのは彼女が子供の頃である。当時は人間の食事を適当に食べさせていたらしい。世間はそんなものだった。だから家にチーコが来たときも、適当にご飯に鰹節をまぶしたようなものを与えていた。チーコは喜んで食べていた。
　しかし少しして動物病院に連れて行き、いろいろ事情を教えられた。猫に人間と同じものを食わせるのは無理があるらしい。しかも飼い始めた当初、チーコは首のあたりの毛が抜け落ちる症状を呈した。獣医の先生の話では、たぶんアレルギーだろうという。人間の家の中にいろんなアレルギー源があることがあり、また何らかの人間の食物、あるいは食器がアレルギー源になることもあるという。いわれてみると人間と同じである。そこでまず、食事を動物病院で出す固形の食糧に限ることになった。食器も金属の食器に定めた。家の中もなるべく掃除をするようにした。しばらくして毛が抜ける症状はおさまった。アレルギー源は人間の場合も簡単に分かるものではなく、まして猫の場合も滅多に分からない。可能性として何かの食糧がアレルギー源だった可能性が強い、というところで落ち着いた。
　チーコの食事はしばらくは固形の食糧に限っていたけれど、この制限は段々と崩れていった。最初のきっかけはたぶん、チーコが庭周辺のトカゲを頻繁に取ってきて食べたことである。猫の食糧は、家に閉じ込める場合を除けば制限するのは難しい。元来ハンターである猫は生肉がよいのだろう。こうなると、病院指定の固形の食糧に限定する理由が薄らいだ。まず水で塩抜きした煮干を与えるようになった。さらにスーパーに行くと猫用の缶詰が目にとまった。買ってきてチーコに与えると喜んで食べた。そうこうしているうちに、チーコの普段の食事は、「猫缶」と煮干と固形食糧のコンビネーションになった。むろんチーコはうまいものから食べる。最初に猫缶、ついで煮干、最後の固形食糧は残すことが多い。

　１０月のある日、職場から家に電話すると猫用の缶詰がないので帰りにコンビニで猫缶を買ってきて欲しい、とカミさんが言う。その頃、我が家では人間の子供が生まれたばかりなので、カミさんはなかなか買い物には出られない。しかしコンビニに猫缶なんてあるのか。「コンビニって、誰もが買うものしか置かないから、猫缶なんてある訳ないじゃない。」と私が言う。とは言いながら、チーコに缶詰がないのは不憫であるから、帰りがけに北浦和西口駅前のコンビニで猫缶を探してみた。案の定、見つからなかった。既に夜も遅い。私の町まで帰ると猫用の缶詰はまず手に入らない。ここ北浦和で猫缶を探し、なければ大宮駅を降りて探す他ないだろう、と考えた。
　北浦和駅の改札を通らず東口に出た。東口近くに昔、雑居ビルのようなデパートがあったのを思い出した。そのビルを探した。しかし既にそのビルはなくなっているか、閉まっていて分からないのか、ともかく見つからない。東口をうろついているうちにやや大きめのコンビニを見つけた。念のためそのコンビニに入り猫缶を探した。入ってみてよかった。ちゃんと入り口近くに猫缶があるではないか。３、４個買って駅に向かった。
　自宅住所のＪＲ駅を下りると小さいコンビニがある。このコンビニにも猫缶があるかどうか、試しに入ってみた。種類は少ないけれど猫用の缶詰と固形食糧が置いてある。認識を新たにした。世間で猫を飼っている人は私と同様に、急に猫の缶詰が必要になることが、結構多いのだろう。不満を抱えたチーコに早く缶詰を見せて安心させよう、などと馬鹿なことを考えながら家に急いだ。　

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