続・猫暖房 (2001/12/31)

　１２月も半ばになり、寒さが強まるに従って、温室の暖房のことが頭を離れなくなった。ペットウォーマーだけではどう考えても寒い。さりとて他の暖房の手立てについてはカミさんが首を縦に振る気配はない。どうしたものかと考えつつ、私は再び夜になると湯たんぽにお湯を入れて温室に運ぶようになった。ただ湯たんぽだけでは駄目であるのは明らかだった。湯たんぽは直に空気にさらしておくとすぐに温度が低くなる。毛布にくるんでおけば湯たんぽの温度は一晩くらいは持つ。しかし、持つ代わりに放出する温度は低くなる。
　気が付くとインターネットで再び暖房具を調べるようになっていた。小さい温室用の電気のヒーターも時折見つかった。どのように熱が出るのかは分からないけれど、安めで役に立ちそうだった。しかし使ったことがないので勝手が分からない。ペットウォーマーよりは電力の強いアンカか足温器を置けばよいとも考えた。傑作なのは銅製の湯たんぽ１万円というのがあることである。銅製の湯たんぽだと温度が長持ちするという。これなら安全でいいんじゃない、とカミさんに言うと、「買えば」という冷たい返事が返ってきたのでいくぶん切れかかった。

　ペットウォーマーが届いて１０日近くたったある日、夜に職場から家に電話した。カミさんに温室に餌を入れて置くように頼んだ。予想では既に餌はなくなっているはずだった。しかし断られた。私は大いに不機嫌に帰宅した。餌を入れて置くように頼んで断られたことはむろん、初めてではない。しかし断られる度に、僅かな手間をしてもらえないことに失望感が募ってしまう。帰宅して家に入る前に温室を見ると、案の定、餌は完璧になくなっている。餌を温室の中の皿に入れてから家に入った。
　次の日はクリスマスに近い休日だった。おきがけに戸の外を見ると間近に猫Ａがいる。餌は食べたのかどうか分からない。外に出て温室の中に餌を足すと、Ａはいつも決まって、私が遠ざかるのを見届けてから中に入り、餌を食べる。
　午前中に買い物に行くと言い残して家を出た。近くにイトーヨーカ堂がある。そのまた近くにコジマ電気がある。ともかく電気屋に行って暖房具を見てみよう。そう考えてまずコジマ電気に向かった。
　冬であるからコジマ電気には暖房具は揃っている。アンカ、足温器は目に止まらなかった。製品を眺めているうちに、ファンヒーターの小さいのがあることに気が付いた。電力消費量が高いことは欠点であるけれど、石油なしのファンヒーターであれば一応安全である。電力消費量も小型温室用の電気ヒーターとさして変わらない。他にパネルヒーターが目に止まった。安いのは５千円程度からある。店員に性能を聞いたけれど、私の経験ではパネルヒーターは温度がなかなか上がらない。考えた末に小型のファンヒーターを買うことにした。店員の話では４．５畳程度までしか温まらないという。しかし温室は２畳程度であるから問題ない。

　帰宅してから知らぬ振りをしてファンヒーターを温室の中にすえつけた。試しにスイッチを入れるとある程度暖房になりそうだと思った。問題はこのファンヒーターに対するカミさんの理解が得られるか、である。
　幸いにも神風が吹いた。朝日新聞に、浦和のオフィスビルの屋上に住む猫の記事が載っていた。この猫はもとの買主が亡くなり、会社員が後事を託されたので、ビルの屋上で飼うようになった、という。会社員が何人かしてその猫をなつかせ、世話をしている、という話である。人の考えることは同じであり、この記事でも猫には温室が与えられている。寒さをしのぐためにアンカを使っている、という。その猫は屋上で２度目の冬を迎える、との記事だった。その記事はカミさんもしっかり読んでいた。世の中には同じようなことをする人がいるものだと観念してもらえたのかも知れない。ファンヒーターは家族に好意的に受け止められた。カミさんは温室用の棚を通販で選んでくれるまでになった。夕方以降、寒くなるので温室のファンヒーターをつける日々が続いている。
　以後、温室に餌をやりに行く私に家族の冷たい視線が向くことはなくなった。Ａは近頃、温室の近くに朝現れ、１１時頃まで温室付近にいることが多い。私が近づくとＡはまだ遠ざかるけれど、他の猫は家の敷地外に逃げるのにＡは逃げない。私が温室に餌を置くと、私が遠ざかるのを確かめてから温室の中に入って餌を食べる。
　私が家にいるときは気が向くと温室の餌をチェックしてみる。面白いことに、猫の存在には気づかなくても餌は恒常的に、少しずつなくなっている。Ａが頻繁に食べに来るのか、いろんな猫が代わる代わる来るのかは分からない。

　私の猫道楽の話は一応ここで終わる。しかし冬の寒さはまだ始まったばかりである。さらなるエスカレーションがないとは、まだ言えない。

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