雑感：猫預け

　猫預け (2002/04/03)

　今年も例年のように、春休みの期間にカミさんの実家に家族で出かけた。今回はカミさんのお産後の、家族での最初の遠出だった。カミさんの母さんに生まれた子を見せに行きたかった。が、今回は未曾有の難問があった。猫である。

　我が家で猫のチーコを飼い始めたのは昨年の６月である。外猫のＡに食糧を用意するようになったのは９月である。何れもカミさんが妊娠している期間だった。そのため、昨年の夏には例年の慣行を覆し、家族で出かけることはなかった。９月末に子供が生まれた後も、新生児の首がすわらないので、やはり出かけることはなかった。この春休みにやっと出かける機会ができた。そこで生じたのが「猫をどうするか」という問題である。

　猫を飼えば出かけるときに困ることは、最初から分かっていた。私が元来猫を飼うのをためらっていた原因の１つがこの点である。が、猫を飼い始めたときには勢いで、その問題の重要性が過小評価された。実際家族総出で出かける段になって、改めて猫問題に直面することになった。
　まずチーコをどうするかを家族で話し合った。心配の種はいくつもある。最初は猫のチーコを一緒に連れて行くことを考えた。が、籠に入れて車や電車に揺られるのは消耗であることがまず問題だった。さらに、行った先でどうするかも問題だった。カミさんの実家は福島県のＳ市、阿武隈川の近くにある。裏は辺鄙な岩山である。以前はタヌキが出ることもあった。もしチーコが外に出たりすると、そのまま戻って来られない恐れがある。土地勘がないからである。そのまま野良の生活になってしまうのは、生活力のないチーコには可哀相だ。だからと言って、紐でつないでおくのもストレスだろう。
　そう思って猫ホテルに泊めることを考えた。食事の心配はないだろう。猫ホテルと言っても、近くにあるのはかかりつけのＴ動物病院だけである。たぶんあまり、居住環境はよくない。しかも猫ホテルに預けると、チーコは捨てられたような気分になってしまうのではないか？
　あの動物病院に、チーコは良い思い出がない。一度は、不妊手術をさせた。二度目は、歯の治療のために一泊させ、ひどく消耗して帰ってきた。何れの場合も、帰宅後、すねたような態度を長く示していた。あの動物病院に連れて行くことで、不信感を持つようになるのではないか？
　とは言いながら、行った先で迷子になるよりは良いだろう、ということで、チーコは猫ホテルに連れて行くことに決めた。ただし、泊めるのは２泊だけ、私が先に家に戻ってチーコを引き取ることを考えた。
　次の問題は外猫のＡである。Ａは我が家の敷地内に長くいる訳ではない。が、Ａは既に、我が家の温室を定期的に使い、私が置いておく食料を半ば当てにするようになっている。不在の期間の食糧をどうするか？
　Ａについては、小さいダンボールに何日か分の食糧を入れておくことにした。問題は、食糧を食うのはＡだけではなく、どれだけの量の食糧を置いたらよいのか、分からない点である。が、不在は２泊だけ、後は私が戻る。小さいダンボールに固形の食糧２種類を相当量入れて温室の中に置いた。十分な水を入れたプラスティックの箱も温室の中に入れた。ご丁寧に、固形の食糧の下には鰹節も入れ、ある程度食べ進むと鰹節が出てくる、という芸の細かさを私は発揮した。

　出発する当日、食事をあまり食べなかったチーコを籠に入れ、動物病院に連れて行った。籠の中でチーコは暴れた。震えているようだった。チーコの瞳孔が大きかった。捨てないでくれ、と懇談しているようだった。籠の中に敷いた紙を爪で引きちぎった。預けてから、大丈夫だろうか、とカミさんと心配しあった。
　カミさんの実家についた日の夜、私はチーコの夢を見た。私の家の２階の部屋、つまり私の部屋のカーテン越しに、チーコの顔が見える。それだけの夢だった。チーコの夢を見たよとカミさんに言うと、カミさんだっかた、娘だったかも、やはり夢を見たという。

　２泊してから私だけ、１人で先に帰宅した。帰宅して最初にしたのは温室の中を調べることだった。固形の食糧は思ったより少なくなっていた。これだけの食糧を何匹の猫が食べたのか、と考えた。私が温室の食糧を整えていると、いつものように悠然と、Ａが現れた。
　温室の処置が終わるとすぐに動物病院に向かった。受付で猫を引き取りに来たと言う。ホテル代は意外と高かった。籠に入ったチーコを引き取った。籠を抱えて家に急いだ。籠の中でチーコがニャーニャーと鳴く。私も付き合ってニャ－と答えた。家に近づくにつれ、チーコは安心したようだった。
　家に入ってからのチーコは一通り家の中を見回し、安心したかのようだった。すぐに水を飲んだ。食事を欲しがるようなので与えると、少しだけ食べた。何度も甘えるように私に近づく。普段は食事が欲しいときの仕草であるのに、今回は食事の要求ではないらしい。
　連れ戻って数時間したら、チーコの姿が見えなくなった。もしやと思って２階に行くと、２階の下の娘の部屋の、ベッドの上で寝ていた。平常に戻ったようだった。

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