猫Ａの嵐（１） (2003/03/14)
| ２月の１０日前後に猫温室の中が散乱した日から数日間、私はＡをまったく見なかった。５日後になぜか、温室の中でＡの後姿らしいものを見かけた。が、その姿がＡだったかどうか、確証はない。Ａは怪我をしている。ここに現れないとするとどこかで動けなくなっているのではないか。どこかで死んでいるのではないか。そう思いながら１週間ほどがさらに過ぎた。 猫がいなくなると庭に小鳥が来る。節分で残った豆を私は時折、庭に撒いた。 ２月も２０日を過ぎたある夜、家猫のチーコが２階の私の部屋に入ってきた。私にすり寄ってくる。甘えているのかと思った。するとどこかで猫の鳴き声が聴こえた。猫の喧嘩にしては穏やかであり、猫が発情にしているにしては静かだと思った。１階に下りて暗い中、庭に出てみた。猫温室と駐車場の間に動かない黒い影が見えた。懐中電灯を当てると猫だった。猫はすぐに逃げてしまった。 あの姿はＡだと思った。あるいはＡと似たストライプタビーのオス猫の「Ａもどき」だったかも知れない。暗いせいもあり、どちらかは確証がなかった。 次の日は朝から雨で雪が混じった。一時はほとんど雪になった。 Ａが姿を現したのはその次の日である。 朝、目を覚ますとチーコが私の布団に近づいて来る。私がおきるとチーコは私の足元でいつになくじゃれた。食事が欲しいのかと思って食事を作ってもチーコは食べない。 庭に出て猫温室を見てみた。すると入り口で猫の後姿が見えた。温室の中をのぞくとＡがしゃがんでいた。確かに、今度こそ確かにＡである。温室の中に食糧を置いておいた。 その日はその後で家を出て職場に向かった。午後から業務がある。 日が高くなるにつれて晴れてきた。いくぶん暖かくなった。駅に着くまでの途中で、畑から昨日の雨と雪の水分が水蒸気として立ち上るのが見えた。 件の業務と会合を済ませて１８時頃に家に戻った。Ａがどうなったかと思った。 しかしまたも大変なことがおこっていた。帰宅して温室の中を見ると、Ａが怪我をした日と同じように、温室の中が荒れていた。食糧の瀬戸のお椀が割れており、食糧が散乱していた。糞尿の臭いが立ち込める。Ａは温室内の、寝袋を敷いたダンボールの中にいた。しかし形相が平常ではない。ひどく興奮しているようであり、私が近づくと唸ったり吼えるような姿になる。とりあえずＡから離れた場所を少し整理し、食糧を置いただけで温室を引き上げた。 たぶん、また温室内で喧嘩があったのだろう。中が散乱しているのは、その喧嘩のせいか、あるいはＡが興奮して暴れたためか。 興奮しているようではあるが、Ａは座ったまま動かない。糞尿もＡのものだろう。猫は元来きれい好きであり、自分の居場所に糞尿はしない。Ａも同じであり、糞尿は別の場所でしていた。なのに今、Ａはじぶんの座っている寝袋の上に糞尿をしている。動けないのか、怪我が悪いのか。このままでは死んでしまうのではないか。その夜、Ａを捕まえて強制的に動物病院に連れて行くことを私は考え始めた。（続く） |
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