猫家出 (2003/03/23)



　３月中旬のある日の１９時半頃、我が家では例によって居間でみんなして夕食をとっていた。食卓に鮭があったので、いつものように私は少しちぎって猫のチーコにあげた。チーコは鮭と鯛が好きである。
　食べた後、チーコはソファーに上がり背もたれの上を歩いていたらしい。あいにく背後であるため私は見えなかった。チーコはそこでズルッとソファーの後ろに落ちかけたという。うちのチーコは運動神経が良くない。
　その姿を見てカミさんや娘たちが笑った。しかしカミさんがいう。猫の失敗を笑ってはいけない。猫はプライドが傷つき、名誉挽回しようとして無理をするからだ、という。
　カミさんの予言がすぐに当たったというべきか、チーコはソファーの上から近くの棚の一番上の段に飛び上がろうとする姿勢をとった。見たところ、チーコには無理である。みんなでチーコをおだてながら、やめるようにいう。しかしチーコは聞かない。十分な溜めをとってからチーコは棚の上に飛び上がり、腕（前足）をどこかに引っ掛けてからうまく一番高い段に飛び乗った。みんなでチーコをおだてて偉い偉いと手を叩く。降りるときもさすが猫で、垂直の棚からうまくソファーの上に降りてきた。

　しかしチーコはこれだけでは収まらなかった。玄関口に行って盛んに外に出たいと仕草で示す。仕方なしに私はドアを開けた。外に出たがるときにドアを開けて、少し外を眺めさせてからすぐに捕まえて家の中に入れる、ということをよくしていた。しかしそのときはチーコは外に出てからすぐに私を振り切ってどこかに消えていった。
　２０分もすれば戻ってくるだろう、とカミさんがいう。しかし３０分過ぎにても戻って来なかった。

　猫であるからチーコは外に出る。しかし通常は昼間であり、夜暗くなって外に出したことはほとんどなかった。さっき笑ったのでチーコがグレて家出したのか、などと話した。私や娘が庭に出て、懐中電灯で探した。もしかして木の下に隠れているかもしれない。しかしチーコは見つからない。私は心配になって、近所を一周した。夜、外に出るというのは、もしや近所で猫の集会でもあるのか、とも思った。どこかで猫の声が聴こえないかと耳を澄ませたけれど、聴こえなかった。空しく帰還した。
　チーコはどこに行ってしまったのか、とカミさんと話した。もとはといえば、私が外に出したのがいけない。そいつはまずかった。
　２階のベランダから周囲を見渡しながら、このままチーコは帰って来ないのではないかと思った。

　ドアを開けたままにして私は玄関の外で立っていた。玄関の近くには猫Ａのための食糧を置く犬小屋がある。気がつくと、そのＡが犬小屋で、置いてある固形の食糧を食べていた。この時間にＡが現れるのは珍しい、と思った。缶詰パックの半分をお椀に入れてあげると、Ａはよく食べた。食べながら、Ａは時折、私の居場所とは反対方向を盛んに気にしていた。と、Ａが気にしていた方向からチーコが現れた。戻ってきたのだ。チーコは家の中に入った。緊張したのか、尻尾が太かった。チーコが帰ったと家族に向かって私がいう。チーコは娘たちに出迎えられた。そのうち、Ａはどこかに消えてしまった。

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