続・秋猫 (2003/10/30)

　夕方、ＰＨＳで職場から自宅に電話した。カミさんが出る。今日、カミさんは午後に栃木県の某所に行く予定があったけれど、既に帰宅していた。用件を済ませたかどうかを聴くついでに、カミさんに外猫のＡを見かけたら食糧をやるように頼んだ。断わられた。
　Ａのことがいくぶん気になり始めた。メールを出して一段落したところで早々に仕事を切り上げ、帰路についた。帰宅したのは２０時近かった。
　家に着くとドアの近くの地面に黒い影が見えた。Ａである。私は猫温室に行って食糧をあげようと思ったけれど、Ａは温室には来なかった。ドアの近くを動かない。仕方なしに食糧皿を持ってドアの近くに行き、Ａの傍に食糧皿を置いた。Ａは少し間を置いてから食糧に口をつけた。

　ややあってまた外に出るとＡはやはりドアの近くにしゃがんでいる。食糧皿を見るとあまり食べていない。実はカミさんが食糧をあげてくれていたかも知れない。あまり食べたくはなかったのかも知れない。
　それでもＡはドアの近くに佇んでいた。逃げずにしゃがんでいた。庭には息子のＹの三輪車が置いてある。私はその三輪車に腰かけてＡと向き合った。暗いのでＡの姿はよくは見えない。Ａはしゃがんで横を向いていたけれど、じきに正面を向いて私を眺める。
　私とＡとの付き合いは２年を越える。この間にいろんな猫がこの庭を訪れ、そして来なくなった。しかしＡは今日まで来続けている。にもかかわらず、これほど間近にＡと対することは今までになかったように思う。何の音も聞こえない。空は晴れて星が見えた。

　Ａは動かなかった。しばらくして私は家の中に入った。その後でもう一度外に出てみると、Ａの姿は既になかった。　

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