友人 (2003/12/12)

　仕事から家に戻ると郷里の母から電話があった。いつになく明るい声だった。実はこの日、母は今まで住んでいた一戸建てからマンションに引越しをした。引越しといっても隣に建ったマンションへの引越しであるから、それほど煩わしいことではない。私が行けないので私のカミさんが下の娘と幼い息子を連れて手伝いに行った。久しぶりに孫の顔を見たので嬉しかったのだと思う。

　母が世間話を始めた。この数日間に、ＳのＹちゃんとＨのＭちゃんが１日違いで亡くなったという。このお二人は私の父の友人ある。父には「ちゃん」付けで呼び合う友人が近隣に何人かいた。私の父は「マサミ」であったので「マッちゃん」である。たぶん子供の頃からの友達で、昔からの呼び方をそのまま続けてきたのだろう。私の父が亡くなったのは２５年ほど前である。だからこのお二人は長生きをされたと思う。この友人グループは○○会と称して付き合っていて、よく一緒に旅行などをしていた、と記憶している。
　「１日違いで亡くなるとは、随分と仲が良かったんだね」と私がいう。
　Ｈさんとは大きな商店のご主人で、商売人は商売に徹する、政治向きのことや変な金儲けには手を出さない、という昔かたぎの商売人だった。Ｓさんは学校のそばの薬局が本業だったと思う。商売はずっとうまく行かなかったように聞いていたけれど、いたってノーテンキ。人の世話が好きな方で、学校関係のヴォランティアなど、商売を放って世話焼きに奔走し、何期か市会議員も勤めていたと思う。

　私の父が亡くなったとき、そのためにいろいろと辛いことがあった。ちょうど私が大学院にいて、誰ぞにいじめられていた頃である。しかしこの方々がおられたのは有難かった。
　父が亡くなった折、Ｓさんは我が家の墓に何とかいう植物を植えてくれた。その植物が邪魔だから取り除こうかと母がいった。善意で植えてくれたんだからそのままにしておきなよ、と私がいった。その植物は今でも、墓参りをするときに水をやっている。
　私の父はあまり幸運な人生を送った訳ではない。それでも父には良い友人がいたなとうらやましく思う。
　ご冥福をお祈りしたい。

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