続・病猫 (2004/05/16)

　病の赤白猫は良くなったり悪くなったりを繰り返している。

　一時、赤白猫は前足を怪我して血を出していた。そのときには見たところ体調も悪そうだった。食べられるのは水につけて柔らかくした固形食糧だけだった。
　その後、赤白は回復したように見えた。食欲も出てきて、私が出す缶詰食糧も食べるようになった。それからしばらく、赤白は温室に来ては中で寝る、という生活が続けていた。
　ところが少しすると、赤白が寝た毛布にまた血が付いているのを見かけた。心配した。今度は尻尾の付け根のところを怪我しているようだった。また喧嘩でもしたのか。
　尻尾の付け根は毛が抜けている。赤白はその箇所を隠すようにして庭に現れ、草の上で寝る生活をし始めた。
　大きな変化は、赤白が温室には入らなくなったことである。たぶん、体力が落ちたために警戒心が上がったからだろう、と思った。閉じられた空間に身を置かず、いつでも逃げられる状態を保つのである。メス猫のＡがそうだった。赤白に何かしてあげたいけれど、こういうときには私が近づくと逃げてしまう。逃げられて私が困る訳ではないけれど、赤白がここに来ることができなくなる。そうなると赤白が可哀想だ。結局、何もせずに見ている他はない。
　尻尾の怪我が気になってから、私はまた、動物病院に頼んで抗生物質をもらった。もらうときに、尻尾の異常は怪我なのか、虫でもたかっているのだろうか、と聞いてみた。むろん先方は猫を見ていないのだから分かるはずはない。ダニなどの虫ならばふけっぽくなる、血が出ているなら喧嘩で怪我したのだろう、ということだった。
　赤白が現れたとき、水に漬けた固形食糧や缶詰食糧に粉末の抗生物質を混ぜてみた。しかし赤白は食欲が落ちている。結局、ほとんど薬は口にしていないように思う。
　それでも、赤白はいくぶん元気を取り戻し、普通に動くようになった。

　赤白は庭にいるときは夜でも、草の上で寝ているか、しゃがんでいた。赤白に食糧のお椀をあげると、最近よく現れる若い白猫兄弟や、若い赤猫が周りに来て、赤白の食糧を狙う。赤白もあまり食べないので、結局、その若猫たちが食べてしまう。
　その若猫たちに食わせるために赤白は現れているのではないか、と思うこともあった。
　ある夜、温室の中に赤白猫を見つけた。中には別の若猫がいた。赤猫だったろうか。赤白に缶詰食糧をあげる。赤白は半分食べると若猫に譲ってしまう。私がまた赤白にあげると赤白はまた食糧に口をつけた。赤白猫は楽しそうだった。
　赤白猫とこの若猫には、なんらかの血縁関係があるのかだろうか、とも思った。

　別の夜、赤白を見ないと思ったら温室の近くに赤白が現れた。私は缶詰食糧をあけたお椀を赤白に出したけれども、赤白は臭いだけを嗅いで口にはせず、家の裏手に去っていった。その方向はついさっき、若猫が去っていった方向なのである。その若猫が心配で追っていったのだろうか。

　その次の日、赤白は朝から庭の草の上で寝ていた。特に珍しいことではなかった。しかし私が２階から眺めていると、今度は左の後ろ足をビッコをひいている。また怪我したのか、と思った。昨夜は元気に現れたのに、昨夜のうちに怪我をしたのか。
　ビッコをひいた赤白はまた、元気がなくなった。現れてもほとんど動かない。じっと寝ているだけのように見える。
　ひどいビッコをひいていたのは、幸い、最初の日だけだった。２、３日した今は、やはりビッコをひいてはいるけれど、段々と普通の歩き方になったように見える。最近は、水に漬けた固形食糧ではなく普通の固形食糧を食べている。だから消化機能が落ちている訳でもないようだ。

　赤白は悪くなったり回復したり、を短いサイクルで続けている。しかし確実にいえるのは、段々と元気がなくなっていることのように思う。じっとして動かない姿を見ると、このまま死んでしまうのかと思うこともある。
　それでも、猫はやはり猫だな、と思う。あまり構うな、私は私で生きて行くのだ、とこの猫はいっているように見える。Ａがそうだったな、と私は思い出す。

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