雑感：子猫

　子猫 (2004/08/05)

　自宅の私の部屋に子猫がいるのには訳がある。

　我が家の敷地に来る若猫３匹のうちの１匹、私がいうところのメスの赤猫が子供をつれているのを見たのは６月末のことである。子猫は３匹だった。みんな、親の赤猫と同じ色の赤であるけれど、色の配分では赤猫よりは白い。それ以来、この小さな子猫がよちよち歩くのを草かげでよく見かけた。
　７月に入り、子猫の１匹が見えなくなった。どうしたのかは分からない。
　残った２匹の子猫のうち、１匹は元気で１匹は元気がなかった。ある日２階の窓から眺めていると、元気な方は親猫が塀に飛び乗るのを見て、塀に飛び上がって途中でつかまった。結局落ちてしまったが、飛び上がるだけ元気だったのだろう。元気がない方は常にゼイゼイいっており、目やにが溜まってなかなか目が開かないほどだった。
　ある日の朝、この２匹の子猫を親猫と一緒に見かけたけれど、その日の夕方、子猫は１匹しか見えなくなった。いなくなったのは元気な方の子猫だった。なぜいなくなったのか、今もって分からない。
　親猫の赤猫のもとには、この元気のない子猫１匹が残った。この子猫のことは若猫３匹がよく面倒を見ているように見えた。私はこの若猫たちに缶詰食糧をあげると、子猫もひょこひょこ現れる。この子猫のためにも皿を与えて缶詰食糧をあげると、どの程度食べているかは分からないけれど、口をつけて食べていた。

　８月に入ったある朝、隣のＴさんとの境の塀の上に赤白猫が現れた。私はこの赤白猫を優遇しているので、赤白に缶詰を用意した。例によって若猫３匹も寄って来る。結局、みんなに与えないといけない。しかしなぜか、子猫が見えなかった。
　どこかに子猫がいるだろうと思ってやや離れた草むらを探した。ヒマワリの茎の下辺りに子猫を見つけたので、食糧のお皿を近くに置いた。
　この子猫は、動く元気がなくなっているように思えた。
　その日の夕方のことである。玄関のドアを開けた状態で上の娘とカミさんが話をしている。子猫が玄関近くにやってきて、家猫のチーコが威嚇して追い出しにかかったようだ。娘はまず、チーコを家の中に入れたという。子猫はふらふらしている様子なので、水と固形食糧を近くに置いたらしい。が、そのまま逃げてしまった。玄関からは見えない場所、隣のＫさんとの境の細い敷地にいったようだ。
　私が子猫の後を追ってみた。子猫はこの細い敷地のコンクリートに横になって寝ている。近くに水の皿と、子猫用の食糧の皿を置いてみた。しかし子猫はそのまま横になっている。少しして見ると子猫はいない。子猫は少し逃げて、家の裏のコンクリートの上で横になっていた。

　この子猫はもうじき死ぬのではないか。そう思った。
　ちょうどチーコが我が家に来た２００１年の夏のことである。近所のＫさんの庭に弱った子猫が来たという。Ｋさんは子猫に食糧や水を与えようとしたけれど、子猫は警戒して人間には近づかない。じきに、たぶん脱水症状で、炎天下で衰弱して死んでしまったという。
　その子猫と同じになるのではないか、と私は思った。
　もともとこの子猫は未熟児のようなところがある。喘息のようにゼイゼイいうことが多い。目やにもとれない。そんな中でこの暑さで、次第に衰弱しているのだろう。親もついていないということは、親猫にも見放されているかも知れなかった。今夜か明日のうちに死んでしまうのではないか。
　捕まえて動物病院に連れて行こう。そう思ってカミさんに話すと、賛成してもらった。チーコを入れる籠に、要らなくなった布のオムツを敷いた。この籠と食糧を持って家の裏に回った。子猫はさっきと同じ場所で横になっている。食糧を出して子猫に近づく。子猫は身体を少し起こしただけでほとんど動かない。簡単に捕まえることができた。軽い。籠にそのまま入れてカミさんと一緒に近所の動物病院に運んだ。

　動物病院に連れてゆくと、係の女医先生はまず呼吸を楽にするための処置をし、ついでインターフェロンの注射と、点滴に当たる注射を施した。病気がどうのというより、衰弱と脱水症状が激しいので、今は水っぽい流動食を与えるしかないという指示だった。入院させるのかと思ったら、子猫をそのまま連れ帰ることになった。
　家に連れ帰ればチーコがこの子猫を見咎めるだろう。それだけならよいけれど、下手するとチーコが家を出てしまうかも知れない。チーコには見られぬような配慮をして、子猫を入れた籠を私の２階の部屋に持ち込んだ。４時間おきに注射器を口に当てて流動食を与えたけれど、私もやり方が分からず、試行錯誤だった。
　次の日の朝９時に、昨日の指示通り子猫を再び動物病院に運んだ。昨日と同じ処置が施された。昨日に比べると状態はよい、という。よいといっても危ない状態であるのは同じである。レントゲンをとったら肺炎だと分かった。肺炎のための注射はすでにしてある。何かの風邪から肺炎を起こしたのだろう、という。飲み薬をもらって与えることになった。

　そんな訳で、この子猫が私の部屋に来て４０数時間が経つ。子猫が生き残れるのかどうかは、まだ分からない。一時に比べて子猫は元気になったようにも見える。しかし健常な子猫とはむろんいえない。この子猫にとっては籠は十分大きいと思うが、それでもこの中に閉じ込められるのを嫌がるようだ。部屋を閉め切った上で、子猫を時折、籠の外に出す。子猫はよちよちと混雑した私の部屋を歩き、隅の方でぐったりと横になる。今までは暑くても耐えてつけなかったエアコンを、子猫のためにつけ始めた。気温が高いと子猫の衰弱が進むからである。
　この子猫がどうなるかはまだ予測できない。生き残れるかどうかがまず分からない。生き残ったとして、どのように飼ったものかと思案している。

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