赤白の２４時間（１） (2004/08/27)

　お盆の後半のことである。朝、私が庭に出ると赤白猫がこちらに歩いてきた。赤白は温室の近くの草の上に座った。私がいつものように赤白に食糧をあげようとすると、他の若猫たちも例によって現れた。
　赤白が食事をしている間に、赤白の胴体に１０円ハゲのように毛が抜けた部分があることに私は気がついた。毛が抜けた痕の地肌もただれている。赤白の身体には他にも同様の箇所があるけれど、この箇所は大きい。また何かの病気のせいなのか、あるいはダニでも食っているのか、と考える。放っておけばそのままのような気もする。が、医者に見てもらった方がよいのではないかという考えが頭を占めた。
　赤白は今年に入って何度も、具合が悪くなっている。一時は尻尾の辺りの毛が抜けていて、そのときは様子が異常だった。動きも緩慢で食糧をほとんど食べない。そのまま死ぬのではないかと思ったほどである。だからこの症状は、あるいは深刻なのかも知れない、と考えた。

　子猫を病院に連れてゆくという最近の経験がなければ、私は赤白をそのままにしたかも知れない。しかし頻繁に子猫を動物病院に連れて行っている今の私にとり、猫を捕まえて病院に連れてゆくという考えはアクセシビリティが高まっている。カミさんにも話す。カミさんは「好きにすれば」という返事だった。
　私は家猫のチーコ用の籠を持ち出した。籠の中にオムツのようなシートを敷く。庭の赤白が座っている近くに籠を持ってゆく。背後から前足辺りをつかみ、赤白を持ち上げて籠の中に入れた。猫を捕まえるのはこの要領がよいと最近学習したのである。赤白は少しは暴れたけれど、割とおとなしくしている。そのまま２階に籠ごと持って行った。動物病院があく９時にはまだ１時間ほどあった。

　９時になり、私はカミさんと一緒に赤白を入れた籠を近所の動物病院まで運んだ。男の院長先生がいて、赤白を診てもらう。私がこの動物病院に連れて行った野良猫は赤白で４匹目である。
　院長先生の判断では、この症状はアトピーだという。アトピー用の注射をうってもらった。背中にノミ用の薬を塗ってもらった。ノミとダニでは薬が違うけれど、とりあえずノミの薬を塗ったという。この注射でたぶん治まる、２週間見て治まらないならまた連れてくるように、といわれた。赤白にはアトピー体質があるらしい。また、金属音に敏感だとも指摘された。思い当たるフシがある。

　赤白を家に連れて帰った。そのまま放してもよいけれど、注射をうったので２、３時間は安静にさせようと思った。２階の私の部屋にある、子猫用に買った大き目のケージの中に赤白猫を入れておいた。
　赤白はケージの隅の方にいて毛づくろいをしていた。このケージは３段、つまり３階建てである。赤白は動かずに１階でじっとしているので、私がケージの２階や３階に赤白を抱いて移動させてみた。
　食事を入れても赤白は食べない。緊張しているのかも知れない。盛んに毛づくろいをしている。
　同じ部屋には子猫がいる。子猫は赤白を懐かしがるように近づくことがある。しかし近づくたびに赤白はカッを声を出し、威嚇して子猫を遠ざけてしまう。
　赤白がケージを出たがることがある。出してあげる。赤白は部屋の中を歩き回る。子猫が近づくとやはり威嚇して追いたてる。部屋の中では収まりがつかないので、やはりケージの中に入れる。
　２、３時間で外に戻すつもりであったけれど、このままにしておこうという気がしてきた。この猫は特に外に出たい訳でもないように見える。この部屋の中にいて、赤白はさかんに毛づくろいをしている。おかげで、今までに見たことがないほど、身体はきれいになった。やはり猫は環境によって姿も変わるのだと思った。

　赤白は最近、ドアの近くまでやって来ることが多かった。時折、家の中に入りたそうにしていた。あるいは、赤白はこの家の中にいたかったのではないか、だからこのままでもよいのではないか、と思えた。
　以前猫Ａのために買っておいた猫トイレを、猫砂を入れてから赤白のいるケージの中に置いた。赤白はウンコはしなかったけれども、そのトイレでオシッコはした。

　部屋に子猫と大猫がいるという奇妙な状態の中で私は仕事を続けた。自然と夜が訪れた。

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