赤白の２４時間（２） (2004/08/27)

　赤白猫を捕まえてから１４時間がたった。既に夜も更けた。赤白はこの部屋の中で毛づくろいをしながら時間を潰していた。このまま赤白を家に置くのもよいのかも知れない、と私は思っていた。
　カミさんが私の部屋に来たとき、私は赤白をケージの３階に上げて近くの窓を開けてみた。この部屋に連れてきてから赤白がはじめて触れる外気である。庭の片隅と隣の家が見える。窓の外のこの景色は赤白には見慣れた場所であるけれど、この高さから眺めるのははじめてのはずだった。
　窓の外を見せると赤白は目を見張った。その窓に近づこうとし、ケージから抜けようともがいた。赤白はやはり、自由な野良猫だったのだ。外を見せれば出たくなるのだ。仕方ない、今から外に出そう、と決心した。

　赤白をまたチーコの籠に入れ、玄関でドアを開けた状態で籠を開けてみた。家にとどまるか外に出るかは赤白に任せた。赤白は外に出て、しばらく玄関付近にとどまった後、気づかぬうちに闇の中に消えていった。

　折悪しく雨が降ってきた。雨に濡れるとせっかくの背中の薬も流れてしまうかも知れない。舐めて身体に害があるかも知れない。何より、異様に寒くなったではないか。このタイミングで外に出したことをいくぶん後悔した。捕まえていたので、赤白はしばらくは、あるいは２度と、来なくなってしまうのではないかと心配した。
　その後少ししてから、たぶん０時過ぎに、屋根だけの駐車場の近くで赤白を見かけた。安心した。遠くへは逃げなかったのだ。近づくと逃げると思い、近くに食糧を置くだけにした。

　話にはまだ先がある。
　次の日、私は朝の７時頃に急に目を覚ました。外は雨のようだった。あるいは急に降り出した雨の音で目を覚ましたのかも知れない。何やら気になって外に出てみた。ドアを開けた右手の家の壁に、へばりつくように赤白猫がしゃがんでいた。たぶん赤白猫は明け方、ドアの近くにいたのだろう。急に雨が降り出して壁の近くに退避していたのだろう。赤白は雨を嫌うのだ。赤白の瞳孔が丸く開いている。この目は恐怖にとらわれているときの猫の目である。雨は強く降っており、そのままにいても雨を避けることはできない。私は玄関に隣接する部屋の戸を開け、赤白を無理に捕まえて部屋の中に入れた。それ以外に赤白が雨を避ける方法はないと思った。しかし赤白は戸の隙間から外に出て、また前と同じ場所でうずくまっている。もう一度捕まえて、今度は戸を外から閉めた。私は家の中からその部屋に入っていった。しかし赤白はその間に、たぶん自分の手（前足）で戸を開けて出て行ってしまった。猫は前足を器用に使う。私も後を追って外に出たけれど、今度は私が近づくと雨の中をどこへともなく逃げて姿を消してしまった。
　これでは雨に濡れるだろう。逃がしてしまったことを悔やんだ。雨が降って今日は今までと打って変わって寒い。こんなときには赤白を家の中に置いてあげたいと思った。

　昨日の朝、赤白を捕まえてから、ちょうど２４時間の赤白とのやり取りだったことに気がついた。
　雨はじきに小降りになり、昼頃にはほとんど止んだ。しかし気温は異様に低い。
　しばらく現れないかと思っていた赤白は、その日のうちにまた駐車場付近に現れた。近づくと逃げると思い、少し離れたところに食糧のお椀を置いてあげた。赤白が現れなくなることを私は心配したけれど、赤白はその後も駐車場付近に毎日、姿を現している。

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