モモちゃん危機一髪 (2004/09/24)

　夜中の１時頃のことである。モモのいる自宅の２階の部屋で私はプログラムを書いていた。途中で席を立って窓を開け、タバコを吸った。
　私の部屋ではモモがいるので、窓やガラス戸を開けるにも注意が必要である。戸はベランダと隣接するからまだいいけれど、そのベランダの先は屋根である。窓を出るとすぐに屋根になる。家の屋根は勾配がやけに急で、屋根の上に人が立つことはできない。手で何かにつかまらない限り落ちてしまうし、つかまる物もない。工事屋にも有難くない屋根である。この屋根の上にモモが飛び出すと大変なことになる。だから窓や戸を開けるときには注意が必要になる。
　窓の場合、モモが窓から出るとすれば、近くの棚に上ってから窓に飛びつく場合である。だから窓を開けるとき、その方向を私の背中で隙間なくブロックしておけばモモが窓に飛びつくことはない、と踏んでいた。
　そのときには私はモモのいる場所を確認しなかった。モモは何かの陰によく隠れるから、すぐに確認できないことはままある。しかし確認しなかったのが不注意だった。窓を開け、モモが窓に行くのをブロックする姿勢をとって私は外を眺めながらタバコを吸っていた。
　すると、猫がギャーっと叫ぶ声がする。しかも窓の外からするのだ。一瞬、外で猫が喧嘩しているのかと思ったけれど、ふと見ると私の目の前の屋根の上にモモがいる。なぜそこにモモがいるのか理解できないけれど、モモは屋根の上で私の方を見ながら狂わんばかりに叫んでいる。屋根が急なので、屋根の上で立ってはいるけれど、後ずさりするような格好で屋根の縁まで落ちてゆく。
　何とかしようと思ったけれど、私が屋根に降りても落ちるばかりである。ベランダ側のガラス戸にかかっているカーテンをとっさに引きちぎった。そのカーテンをモモの方向に投げてやる。これにつかまれ、と人間ならいうところ、相手が猫なので思うようにはいかない。モモは屋根の上を動いたように見えたけれど、その後で私は見失った。
　すぐに騒ぎながら１階に降り、庭に出た。カミさんが起きてきて、近所迷惑だという。私は簡単に事情を説明した。モモが落ちた音は聴いていない、とカミさんは言う。音がするものかどうか分からない。私は懐中電灯を持って庭から屋根を照らした。モモは屋根の縁にいるだろう、と思った。しかし見当たらない。幸い、モモが落ちそうな場所にはヒマワリが群生している。落ちてもそのヒマワリがクッション代わりにならないか、と期待した。私はヒマワリの生えている辺りを探した。見つからない。下からだと屋根にもモモは見えない。どうしたのか。あるいはモモは無事だったけれど、庭に落ちてからどこかに去って行ってしまったのだろうか、とも考えた。
　私が狼狽していると、カミさんがモモを腕に抱えて玄関から庭に出てきた。モモは私の部屋の、私の机の上にいた、という。自分で屋根を上がりベランダに来て、戸の開いている部屋に戻ってきたようだった。カミさんの腕の中でモモはウンコまみれになっている。極度の緊張のために脱糞したようだ。
　モモを抱いたカミさんと私は２階のモモの部屋に戻った。赤ちゃんのお尻拭き用の濡れティッシュでモモの身体についたウンコを拭いた。拭くのに時間が掛かった。
　その間、モモは緊張し興奮し攻撃的な叫びをあげた。怪我などをしたときの猫はこうである。落ち着くのに時間がかかった。
　モモは少し落ち着いたらまた、私の机の上の、いつもの書類箱の中に戻った。疲れ切ったのか、１時間ほど目を閉じて寝ていた。その後に目を覚ましたようだったので、私は注射器でいつもの薬を飲ませた。
　服にモモのウンコがついたカミさんはシャワーを浴び、着替えて寝た。私もシャワーを浴びてパジャマに着替えた。モモを安心させようと思って私はそのまま、モモのいる部屋の畳に寝転んで寝た。後でモモがやってきて、私の足や手をかじったり爪を立てたり舐めたりしていた。

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