ギンちゃん (2004/10/10)

　２階から庭を眺めていると白黒の乳牛のような色をした大猫が物置を伺っている。向かいのＫさんちの猫のギンちゃん、こと銀次郎である。この物置の中には猫が入れるようになっているけれど、ギンちゃんは遠慮するかのようにその前でウロウロしてから別の方角に去っていった。
　先日、そのＫさん一家が引っ越すそうだとカミさんから聞いていた。Ｋさんは私がここに住み始めたときから住んでおられた一家である。しかも猫を飼っているので猫に理解がある。そんなＫさんが引っ越すというのはなんとも残念に思う。

　ギンちゃんはオスの大猫である。去勢しているけれど強い。Ｋさんの家にはギンちゃんの他にノンキちゃんという、同じような色をしたオス猫がいる。ノンキちゃんが成猫のときにギンちゃんがＫさんの家で飼われはじめたらしく、ノンキちゃんは子猫のギンちゃんの面倒をよく見ていたのだそうだ。小さかったギンちゃんは今はノンキちゃんより大きくなっている。この２匹は血縁関係はないのにずっと仲がよく、一緒に遊び歩いている。我が家の敷地内にもよく現れる。
　実はギンちゃんの存在は私にとっては有難くなかった。ノンキちゃんは名の通り温和であるけれど、ギンちゃんはよく他の猫とことを構える。大きく太っているギンちゃんに勝てる猫は見たことがない。以前、私がエサをあげていたメス猫のＡが私の敷地に来ていたときも、ギンちゃんはせっかく来たＡを追いかけて追い払ってしまう。Ａが可哀想な分、ギンちゃんを憎らしく思った。現在、我が家の常連となった白猫たちともことを構える。家猫のチーコともにらみ合うことがある。だからギンちゃんを見ると私は警戒し、喧嘩になりそうだと思うと追い立てることが多かった。近所の手前を考えるカミさんは、ためらって追い出すことはなかった。

　２階からギンちゃんを見かけて少ししてから私は庭に下りた。昨日の台風雨のために庭は湿り空は曇っているけれど、コスモスはきれいに花をつけはじめている。その花をあしらった草むらにギンちゃんがしゃがんでいた。じっと私の方を見ている。ギンちゃんはもうじきこの地を離れることを知っているのだろうか。この場所を懐かしんでいるのだろうか。私の思い入れのせいか憂いのあるギンちゃんのように見えるけれども、猫らしく凛として私を見据えている。ギンちゃんは整ったきれいな顔をしていると、あらためて思った。

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