書斎八畳猫三匹（完） (2005/04/03)
| 赤白が死んでしまった。 赤白との付き合いは２年にも満たない。赤白はメス猫のＡ、私がその頃一番気にしていた野良猫のＡに付いていたオス猫である。赤白は柄が大きく、何より顔がでかい。我が家の庭でよく平気で爆睡していた。最初は「顔の悪い赤白猫」といっていた。茶と白の猫であるから単純に赤白猫といっていたのである。そのうち「顔の悪い」という形容が取れて単に「赤白猫」と呼び、ついには愛着を込めて赤白（アカシロ）と呼ぶようになった。 私が赤白の面倒をみようと思ったのは、一緒にいる赤白のことを病のＡが私に頼んでいるように見えたからである。私がＡにしてやれなかった、その思いを赤白で充たそうとしたのかも知れない。Ａが消えてから、赤白もしばらく見えなくなった。赤白だけが我が家の敷地に現れたとき、私はＡがもう死んだのだと思った。 その後の赤白は何度か怪我をし、病気をし、死にかけたように見えた。だからずっと病猫だった。それでも赤白は我が家の敷地に現れる猫たち、特に赤猫一族の長として君臨していた。あまりに多くの思い出がある。Ａにあげたマタタビを横取りして、転がりながらはしゃいだこと。かつてＡがしていたように、塀に登って東の空をじっと眺めて動かなかったこと。Ａと同じく塀の上に現れる赤白を、外を眺めるたびに目で探したこと。私が近づくと身を隠そうとするのに尻が丸見えだったこと。庭の、私の寝ている場所の近くに来て、戸の外から私にニャーとよく鳴いたこと。赤白を庭に探しに出たらよく車の下で雨宿りをしていたこと。何度も家の中に連れて来ようとしたこと。猫ドアを作ってあげたこと。口の周りが白くなっているので、カールおじさんみたいだと娘たちと笑って話したこと。私が夜帰宅すると子犬のように私の方に走って来たこと。死ぬ１５日ほど前に１階の部屋のケージに入れたら何時までも鳴いたこと。その声を聴いて庭に猫たちが集まってきたこと。死ぬ１０日ほど前に、最後に庭に出したときに、子猫に挨拶されていたこと。 赤白の遺体はその日のうちに病院から自宅に引き取り、私の書斎に安置した。次の日に火葬し、その２日後に遺骨を庭に埋めた。カミさんと２人の娘が立ち会った。息子も付いてきた。家族が集まったので家猫のチーコもやってきてそばで草を食んでいた。 この１年、赤白の顔を見るのが私の日常だった。全ての猫がそうであるように、赤白にもいろんな表情があった。その一つ一つを思い出す。だから赤白が死んだことは私には大き過ぎる変化である。 それでも私は、赤白の死を素直に受け入れられるように思う。死は痛ましいことではあるが、死に至る１年間の赤白をずっと見守ってきたからである。 赤白がいなくなったことで、我が八畳の書斎の猫三匹状態も夢のように消えていったのである。（完） |
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