コロちゃん（２）　 (2005/06/18)

　さて、５月も半ば近くになったある日のことである。その日は午後にＫ高校に出張講義に行くことになっいた。そこで午前中に、出張講義のプレゼン用ファイルを作っていた。
　ふと２階から下を眺めていると、コロちゃんが物置に近づいてゆき、中に入る。私の家の敷地内は慣れたもののコロちゃんであるから、不思議には思わなかった。が、なぜか物置の中から猫の叫び声が始まった。中でコロちゃんが別の猫と遭遇し、激しく喧嘩になっているのかと心配した。相手は家猫のチーコかも知れない。喧嘩を止めさせないといけない。階段を降り、庭に出て物置に急いだ。
　物置の中ではバタバタ音がするけれど、喧嘩ではないようだ。中に置いた物を外に出して見ると、コロちゃんが、折りたたみの買い物籠のワイヤーに尻尾を挟んでもがいていた。コロちゃんは尻尾でぶら下がった状態である。コロちゃんがもがくのでコロちゃんの尻尾は切れんばかりに見える。助け出そうとするもコロちゃんはひどく興奮している。なれた私であっても、近づくと吼えて威嚇する。それでも、そのままではコロちゃんがひどいことになりそうだ。怪我を覚悟で救出にかかった。両手を何度もひかっかれ、右手を２度、深く噛まれた。両手が血だらけになった。なんとかコロちゃんの尻尾はワイヤーから外れた。コロちゃんはそのままどこかに遁走し去った。
　傷口を水洗いし、消毒液をかけた。カミさんにバンドエイドがないかというと、小さいのを持ってきた。もっと大きいのがないかと聞くと「ないよ」と答える。後で探すと大きいバンドエイドもしっかり置いてあったから、頭に来て近くの物をどこかに投げつけた。
　しかしＫ高校に行くべき時間は迫っている。そのまま準備をしてＫ高校に向かった。

　行く途中、電車の中で右手がいくぶん熱を帯びてきた。Ｋ高校の近くの、東武線Ｓ駅で降りた。タクシーに乗る前に駅前で見つけた薬屋に入り、シップ薬を買って患部に貼っておいた。
　Ｋ高校には時間通りに到着した。何事もなかったかのように、根性で出張講義をやり終えた。しかし帰りの電車の中で右手が痛くて動かせなくなってきた。

　自宅最寄り駅を降りると近くにＡ病院がある。既に病院は閉まっているけれど、急患で病院で処置してもらった。破傷風の予防注射と抗生物質の点滴をうった。しばらく通うように言われた。右手に包帯を巻いた姿で帰宅した。
　この間、実はコロちゃんのことが心配だった。尻尾を怪我というか、「骨折」しているのではないか。我が家の庭を逃げ出して、見知らぬ所で傷ついた身体を横たえているのではないか。庭を探してもコロちゃんの姿は見えなかった。
　しかし夜になると、他の猫の後ろにコロちゃんの姿もあった。少し安心した。

　傷は次の日には少し良くなっているように思えた。しかし病院で診察を受けると、昨日より腫れが広がっているといわれた。同じように処置をし、抗生物質の点滴を受けた。抗生物質の点滴は４日続いた。
　その間、姿を現すコロちゃんではあっても、私にはなかなか近づかなかった。いつも上に立っていた尻尾はだらんとぶら下がっている。やはり尻尾は無事ではなかったんだろうと思った。全般に元気はなかった。私からは遠ざかってしまう。
　そんな日が何日か続いたけれど、気づかぬうちにコロちゃんは元気を取り戻した。最近は尻尾も以前のように立てている。何かもらえるかと思えば私に近づいてくる。

　コロちゃんに噛まれたことでこれほどひどいことになる訳であるから、猫同士の喧嘩は危ないな、と実感した。この程度のことなら、人間なら病院でなんとかなる。しかし猫は、怪我が命取りになるのである。

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