カニ・オブジェ　 (2006/04/02)

　昨夏の終わりのことである。拙宅の北側の２軒のお宅のご主人から強烈なクレームが来た。猫のことである。私の敷地にたむろしている猫がオシッコをしたり糞をして困るという訴えだった。その猫とは大白、小白、黒子に小黒のことである。たぶん母子とテレビ猫のことも入っていたかも知れない。
　大白、小白、黒子、小黒、母子は、そのとき我が家の半飼い猫状態だった。そのとき既に、小さな小黒を除いては、去勢ないし避妊手術をしており、猫ドアを通して、我が家の一角に寝泊りをしていた。ただ、近所からは無責任に、その猫たちに私が食糧をやっている、という認識だったようだ。
　糞やオシッコで害が出ているので、謝りに回る以外にない。対処法をとることを約束して、どうしたものかと考え込んだ。先方は、保健所に捕まえさせに来るとまで言っていた。
　ともかく糞尿の処理まで手を打っていなかったのは私が悪い。ただその頃、家猫のチーコのことも自由に外に出しており、チーコも実は家でオシッコやウンコをすることはほとんどなかった。どこかでして来ていたのである。もともとこの辺りは周囲は畑であった。猫は畑などの柔らかい地面で糞尿をしたがる。その畑がだんだんと小さくなってきた、というのが実情のように思う。

　３日ほど、あれこれと考え、ネットの「教えて goo」などでも意見を聞いた。
　世間一般で猫の糞害が問題になりやすいのは、砂場である。柔らかい砂場で猫が糞をして、砂場が使えなくなるという苦情が多いという。そこで、「猫のトイレとして砂場を作ったら」という意見がどこかにあった。
　そうしよう、と考えた。しかし砂を入れるとして、何に入れるのか？　いろいろ考えた末、子供用の砂場があることに気がついた。
　たまたま家にあった息子のおもちゃ用のカタログに、アメリカ製品で砂場の砂入れが載っていた。そうだこいつを買って砂を入れて猫トイレにすれば、猫たちは好んで砂場で糞尿をするだろう、と考えた。ネットで砂場のおもちゃを注文した。真っ赤の、カニの格好をした砂場である。さらに猫が嫌がる薬品を買った。
　インターネットで猫除け製品を調べると、どれも一長一短のようで、決定打がない。決定打に最も近いと思えるのは超音波の猫除けである。そこでその機械を数台注文した。
　北側のお隣に猫が行くには、猫なりの訳がある。その場所が、どの猫とは言わず、猫の通路なのである。その２軒の何れかを通って我が家の敷地に至り、南隣の別のお宅の塀の近くを抜ける。もう１つの南隣のお宅では犬を飼っているので、そこには猫は入らない。
　北隣のお宅で猫が糞尿をするのは、ちょうど猫が好む、狭く閉ざされたスペースがあるからである。南隣の家では時折猫の食糧（残飯）を出しているので、その場所は猫が有難がって糞尿をしない。私の家でもあまりしない。となると、北隣でしやすくなる、ということのように思う。
　ともかく、猫除けの薬や機械を持って置かせてもらうと同時に、糞尿の害について平謝りし、この間に考えた今後の対処法を説明して回った。同時に、あの猫たちは過酷な生活をしており、命であるから助けてあげたい、私としても猫が増えないように、餌付けした上で捕まえて病院で去勢、避妊手術をしている、いなくなった猫を含めて１０匹の手術をさせている、と説明して回った。

　さて、砂場のおもちゃが届いた。思ったよりでかかった。ここに砂を入れると完璧であるが、考えてみるとこのやり方は行き詰ってしまった。糞で汚れた砂や土を処分する方法がないのである。市の清掃業者は土砂は持ってゆかない。持って行かせるとすると産廃業者である。その手の業者にも電話で聞いてみたが、当方の要望にはあわなかった。
　そこで結局、砂や土を諦め、水にぬれても使えるシリカゲルの猫砂を使うことにした。「教えて goo」で聞いた情報である。そのシリカゲル猫砂を多量に注文したけれど、今度はこの砂場の容器が大き過ぎることに気がついた。結局、普通の屋根のある猫トイレを買って庭に置くことになった。

　まあ、いろんな経過を省略するけれど、ともかくこのカニの砂場は当初の目的には使えなくなった。だから空しく、この赤いカニの砂場は庭に置いたままになった。
　「これどうするのよ？」とカミさんに言われる。私は「オブジェだよ」と答える。
　実際、道路を通ってもこの大きな、カニのオブジェはよく目立つ。草が生えているところに真っ赤であるから、よく映える。これが子供用の砂場であるとは、一見するだけでは分かるまい。
　このカニ・オブジェ、以来ずっと我が家の庭にある。時折その周りで猫が遊ぶ。
　カニ・オブジェはそれ自体が結構でかいので、入っていた箱もでかい。そのでかい箱が庭の物置に入っている。たぶんカミさんはその箱が、庭にあるカニ・オブジェの箱だと思っている。が、そうではない。実は私はこのカニ砂場を２つ買ったのである。その箱の中にちゃんと新製品が入っていることを、カミさんはまだ知らずにいるだろう。
　結構でかいこのカニ・オブジェ、いやカニ砂場、新製品を欲しい方があれば、車で取りに来て下さるなら１つ譲りたい。もう１つのカニはオブジェとして、そのまま庭に置いておきたい。

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