テレビ猫　 (2006/05/22)

　以前私の母が、猫は嫌な顔をしているといった。それは猫が嫌な顔をしているのではなく、猫があなたに嫌な顔をしているだけなんだよ、猫の顔は猫とあなたの関係の鏡なのだよ、と言おうとしてやめた。
　猫にはいろんな表情がある。私が猫に誠意を尽くす限り、猫は私に良い顔を見せる。猫はいくらでもかわいい顔になるものだ。人間でも同じことかも知れない。

　ここでいうのは野良のテレビ猫のことである。テレビ猫、といっても何のことか、どんな猫か分からないかも知れない。まあ、身体が四角いので、私の下の娘が、たぶんテレビみたいだ、といった程度のことで「テレビ猫」と名づけた。他に名前を考える者もいなかったので、我が家ではその名が定着した。
　この猫、オスで茶色と白が混ざり、大雑把には茶トラの猫である。尻尾が短いので、もしかすると私の部屋に棲む一匹であるコロちゃんの父親である可能性もある。死んだ赤白と似ている、といえば似ている。顔は不細工な部類に入り、自然とかわいがる人間が出現するとは思えない。
　テレビ猫は我が家の敷地にしばしば現れていたが、以前、赤白が我が家の敷地を仕切っていたときにはこの猫を近づけなかった。テレビ猫がよくやって来るようになったのは赤白が死んでからである。
　我が家の庭猫たちに食糧をあげようとするとこのテレビ猫がやってきて、その食糧を食べようとする。追い払おうとすると庭猫たちも逃げてしまうので、仕方なくテレビ猫にも多少の食糧をあげていた。そういう意味では我が家にとっては無用の侵入者である。
　しかしこのテレビ猫は妙に憎めないところがある。私を見つけると私に近づき、ちょこんと端座するのである。私が食糧をあげるのを妙に行儀よく待っている。そう来られると追い払う気になれない。そうやって食糧をあげるようになった。
　そうこうしているうちに、このテレビ猫の表情も変わってきた。今までは難しそうなオヤジ顔を見せていたのに、かわいい家猫のような表情を見せるようになった。以前はもっと暴力的であったのに、段々と柔和になった。
　テレビ猫のことは毎日見ているけれど、たまに現れないと心配になってきた。夜、外に出ながら、現れないかと待つようになった。
　テレビ猫はいつもは我が家の敷地にはいない。この辺を巡回しているようであり、時折我が家の敷地に入ってくる。そこで私を見つけろと、私に近づいてきて静かに座る。食糧を待っている。もらえるまでじっとしている。その様を見ていると上げない訳にも行かなくなる。
　残念ながらこの猫は飼えないだろうと思う。外に長くいる猫なので、悪い病気を持っているだろう、と思う。だからこの猫が口をつけた食糧はすぐに捨てるし、食器も洗剤をつけて洗う。そんなこんなで対応しているけれど、そのうち捕まえて去勢手術でもすべきなのかと思っている。

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