テレビ猫　 (2006/07/27)

　私はブログでよく猫のことを書く。その中に「テレビ猫」という表現が現れる。いつだったか知り合いから、テレビ猫ってどういう猫なのかという質問を受けた。白とか黒といえば猫を色で呼んでいることは誰でもわかる。しかし「テレビ」とは何かというのが想像ができない、ということだったように思う。
　たしかに変なネーミングである。

　この猫は我が家の庭によく来るオスの野良猫である。茶系の猫で、白が混じっている。茶といっても濃い茶ではない。最もありふれた、国産の茶系の猫と思えばよい。尻尾が短いのもその外見的特徴の１つである。
　この猫は以前から我が家の庭に現れていた。猫の赤白がいた頃は、赤白がこの猫を追い出していた。しかし赤白が昨年死んでからは、この猫を追い出せる庭猫がいなくなった。
　ときおりこのテレビ猫が、今は私の部屋に住んでいるコロちゃんの父親ではないかと思うこともある。むろんコロちゃんの父親は赤白であったかも知れず、その後姿を消した別の茶系のオス猫であったかも知れない。

　この猫は庭猫の白たちに食事をあげようとすると寄ってくることが多かった。はじめのうちは追い払っていたけれど、それでも来る。無理に追い払おうとすると庭猫たちも驚いて逃げるので、無理には追い出せない。仕方なく庭猫たちに食糧をあげるときには一緒にあげることにした。しかしよく食う。食べる量はこの猫が一番多く、この庭以外では食事にありつけないのではないかと思うくらいである。

　テレビ猫は（人間基準で）容貌が悪い。だからどこに行っても、人間からはかわいがられないだろう。この猫をテレビ猫と呼び始めたのは私の下の娘である。なぜテレビかというと、体つきを横から眺めると四角いから、ということだったらしい。下の娘らしく、私には思いつかない発想でこの猫を眺めていたようだ。しかし家族は皆納得し、以後、我が家ではテレビ猫で通っている。
　確かに容貌が悪いのであるが、この猫には猫なりの不思議な行儀の良さがある。テレビ猫は私を見つけると寄って来て、きちんとしゃがむ。食糧をくれと訴えるでもなく、私が何かを出すのを待っている。私がいると他の猫の皿には口をつけようとしない。えらく律儀に見えて、邪険にするのが後ろめたくなる。私が食糧を出すと周りを気にせずに食べることに没頭し、相当の量をほぼ食べ尽くす。
　食糧をあげているうちに、この猫の表情は私に対しては柔和になった。体はやや小さく、顔つきも違うけれど、どことなく死んだ赤白を思い出させるところがある。

　そのテレビ猫が７月２１日に姿を現した後、次の日から姿を見せなくなった。我が家の猫ではないけれど、現れないのはなぜか気になる。テレビ猫が現れないかと夜、庭をうろついてみるけれど、どうにも見つからなかった。
　まだ梅雨が続く雨模様の毎日である。雨で出てこないこともあるかとも思ったが、雨がやんでも現れなかった。
　テレビ猫はたぶん、体に病気を持っている。野良であれば猫エイズか猫白血病に感染している確率は高く、たぶんこの猫も無事ではないだろう。だからテレビ猫が食事に使った食器を、私はいつも特別に消毒していた。食糧をあげていればそのうち、捕まえることができるようになるだろう。餌付けしてから捕獲し、病院につれて行くこともできるだろう、と考えていた。
　現れない日が３日続いた。具合は悪そうではなかったから、この間に悪い病気が発病したとも思えない。可能性が高いのは、喧嘩か何かで怪我をし、どこかでうずくまっていることである。具合が悪ければそのまま死んでしまう。そんなことを考えながら、やや憂鬱な気分に陥ってしまった。

　３日過ぎた小雨交じりのある日、テレビ猫が庭猫たちと一緒にまた現れた。私は内心、うれしかった。庭猫たちに食糧をあげるときにテレビ猫にも分けてあげた。テレビ猫はしばらく体を舐めていたけれど、私が近くに椀を置くと無心に食糧を食べ始めた。

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