猫の極妻　 (2006/10/22)

　岩下志麻が極道の妻を演じる極妻シリーズという映画があった。むろん私は観ていないし、そもそも岩下志麻という女優は昔から、なぜか好きになれない。たまにテレビで極妻シリーズを放送することがある。少しは眺めるけれども最後まで観ることはない。
　ただ一度だけ、感心することがあった。
　先代組長が死んだ後に跡目を誰にするかという選択になる。先代組長の未亡人である岩下志麻に息子がおり、その息子を高嶋政宏が好演していた。岩下志麻はこの息子には跡を継がせまいとする。が、この息子、段々とヤクザの世界に染まってゆき、武闘派になって跡目を継ごうとするようになる。ここで母子間の対立が起きる、という話であった。
　息子を堅気にさせようとして諦める岩下志麻が独白するように演じる。あの子は極道になると長くは生きてゆけない。今までもあの子が外に出てゆくと、無事に帰ってきてくれるか、今日は何か悪いことがありはしないかと心配する、とつぶやく。
　オスの遺伝子からすれば、組長というのは継ぎたくなるポストであるけれど、息子のことを思えば遠ざけようと考える。親としては当然の心のように思える。
　この話、結末がどうなったかまでは観ていないので分からない。想像するに、高嶋政宏が抗争相手に殺され、岩下志麻が最後に大立回りをして終わるのだろう。

　で、その話が猫と関係あるのかい？とあなたはいいたいだろう。
　猫も同じなのである。

　私の部屋に閉じ込めている４匹の猫たちは、何れも外で死にそうになっていた野良猫である。病院に通いながらこの部屋に入れて置くようになった。たぶん病気や怪我をしなければ、おとなしく室内にはいないだろう。
　この猫たちとは別に庭猫たちがいる。この庭猫たちには家の一角に入れるようにして、冬は暖房を入れる。この前の冬の間は実際、この部屋にいることが多かったけれど、５月あたりになるとどこかをうろつき、見なくなることも多くなった。小白（コジロ）のように常に部屋に戻って来る猫もいるけれど、黒子や小黒のように、しばらく見かけなくなってしまう猫もいる。
　庭猫のうち、餌をやろうとして現れない猫がいるたびに私は心配する。どこかで怪我をしているのではないか？　喧嘩で傷ついているのではないか？　悪い病気になって死んでしまったのではないか？
　先日、庭猫のうちの大白（オオジロ）が怪我をした。捕まえて２階につれて来た。小白であれば他の猫たちと構えるのであるが、大白は呑気に他の猫と仲良くする。いつもなら喧嘩しがちなコロちゃんとモモちゃんも、大白がいると仲良くしていたから不思議である。大白はそういう猫なのだ。みんなを和やかにする。
　怪我をしているうちは大白はおとなしく部屋の中にいた。しかし怪我が回復するにつれて、外に出たそうに声を上げる。
　このまま部屋に置いておくべきかどうかとずっと考えた。
　大白は結果が弱いのに、変に他の猫にちょっかいを出す所があるから、怪我をしやすい。小白であればやらないような無謀なこともする。
　私は大白が好きなのだ。そう思えば、当人が嫌がってもこの部屋に置いておくべきかと考えた。
　そう思っているときの夜中、何の判断があったか、私は大白を連れて台所に行った。近くに小白たちが着ていたので、戸を開けて小白や母子と大白を一緒にさせた。大白はそのまま戸の外に出たがった。出してあげようと思ってそのまま、大白が外に出るに任せた。
　その後、大白は何もなかったかのように、また私の前に現れている。

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