東京タワー　 (2007/04/17)

　昨年の１１月だったか、私が居間にいるときに下の娘がテレビを観ていた。いつもは下らないヴァラエティ番組を観ている娘であるが、なぜか地味なドラマを観ている。この番組が、大泉洋が「ボク」、田中裕子が「オカン」を演じた「東京タワー」というドラマである。なぜこんな番組を観ているかと尋ねると、原作がリリー・フランキーなのだと娘はいう。テレビアニメ「おでん君」の作者である。実際、下の娘はテレビで「おでん君」をよく観ていたし、おでん君の顔真似がうまかった。
　この「おでん君」というアニメは、子供向けの、アンパンマン風のアニメである。が、子供番組なのになぜか哀愁がある。
　「東京タワー」のストーリーはよく知られているだろう。ボクが東京に出てなかなか芽が出ないでいるが、オカンはそのボクをいつも気遣う。やっとイラストレーターで仕事が軌道に乗りかけたときに郷里のオカンがガンだと分かる。そのオカンを東京に呼び寄せて一緒に暮らすボク。オカンを心配しながら見守るが、オカンは死んでしまう。よくありそうな話ではあるが、オカンとボクが嫌味もなく暖かく描かれる。
　良いドラマであるが、私は切なくて観ていられなかった。私自身の母が描かれているような気がした。オカンが死ぬところは観なかった。こんな番組を放映するなよ、という言葉が思わず出てしまった。
　東京タワーって、これが東京だよ、おっかさんという話かい？　そりゃ、泣かせる話に決まってるじゃないか。そんなの、ドラマにするなよ。などと考えた。

　それから少ししてから、私の母がガンだと分かった。あと１、２ヶ月の余命と言われてから３週間後に死去した。慌しく、考える暇もなかった。

　その後、「東京タワー」は映画になると聞いていたが、母の死後、テレビでは２度目のドラマとして放映された。今度は速水もこみちがボク、オカンが倍賞美津子である。このドラマも良いドラマと思う。今度はオカンが死ぬところもテレビで観た。すでに私の母が亡くなってしまったからだろうか。ドラマのオカンは容態が急変し、ほどなく亡くなる。ボクとオトンが病室に泊り込んで一瞬の幸せが描かれた後、すぐに亡くなる。

　病室にいた私の母の心肺活動が急変したのは、私が枕元で寝ているときだった。看護婦が駆けつけ、私も跳びおきた。その１５分ほどしてから母は亡くなった。だからドラマのオカンの死がやけにリアリティをもって私の目に映った。

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