トシちゃん入院記　 (2008/07/06)

　猫のトシちゃんが死んでちょうど１月が経った。トシちゃんのことは死んで数日後に東松山の動物霊園で火葬し、遺骨を１週間家に置いてから庭に埋めた。
　私の手元に『禅の庭』（光村推古書院）という小さい写真集がある。水野克比古という写真家による、京都の寺院の庭の写真集である。買ったのは２００６年の１２月２１日だった。その日、思い立って日帰りで京都に出かけた。大学の仕事がアホらしく思えてきたからである。特にあてのない日帰りtripだった。最初に北野天満宮に行き、娘の受験用のお守りを買った。次になぜか竜安寺に行った。その足で仁和寺まで歩いた。仁和寺を見た後に北に向かって歩き、妙心寺の塔頭群の１つの退蔵院に入ってみた。この写真集はその退蔵院で買ったように思う。あるいは竜安寺であったかも知れない。
　家に戻ったのは当然夜である。それから何時間かした夜中、家の前の道路で猫が私に鳴きながら近づく。その猫がトシちゃんだった。抱いて捕獲して自室にとどめ置いた。次の日に動物病院に連れて行った。
　トシちゃんは保護した当初から、獣医が安楽死を示唆するほどの病状だった。身体はひどく痩せ、毛はかなり抜け落ち、ベトベトだった。猫白血病である上に、口に口内炎（舌潰瘍）があって食事がなかなか摂れず、しかも腎臓が悪かった。身体がベトベトであるのは、口に病気のある猫特有で、身体を舐められないからである。しかし食欲はあるので様子を見ることになった。

　トシちゃんが死んでから、どれほど入院をしていたかと調べてみた。
　まず、２００６年の１２月２３日（土）から２７日（水）まで入院していた。たぶん腎臓の機能低下に対応するために点滴などをしていたのだと思う。
　２００７年になって１月２０日（土）から２８日（月）まで入院させている。１月２０日とはセンター試験の日であるが、この時は私の母が危険な状態になっており、センター試験は休ませてもらっていた。母の看病をするためにトシちゃんを入院させていた、という事情もあったよう思う。ちなみに、母が亡くなったのは１月３１日である。
　その後、トシちゃんは抗生物質で何とか回復していった。私の記録でも、入院した形跡はない。体重も一時は３Ｋｇくらいあったように思う。ただ、医者に言わせるとずっと危険な状態だった。
　再び入院させたのは２００７年１１月１１日（日）から１５日（木）である。その頃は、大学では学長選挙で慌ただしく、仕事では採択された大学院教育改革支援プログラムによるプログラム研究員について、時間を使っていた頃である。
　確かこのとき、動物病院の院長からはトシちゃんは長くないと言われた。体重も急に落ちてきて、２Ｋｇに近づいていた。私は、１２月２１日までは、つまり捕獲して１年経つまでは生かせてあげたいと思っていた。
　トシちゃんは、獣医さんの予想に反して、何とか持ち直してきたのである。当初、私が目標としていた１２月２１日を超えて、トシちゃんは生き続けた。
　トシちゃんの状態は良くはなかったはずであるが、その頃から頻繁に動物病院に点滴に連れてゆく日が続いた。どうしても脱水状態になるので、水分を補給する必要があったのである。
　食事も、放っておくと食べないので、流動食を私が口から流し込むようになった。
　記録では、次に入院したのは２００８年の２月２６日（火）から３月２日（日）の間である。２月２６日は、私が次期の学部長と決まったので、入試課で広報用の写真を撮りにきた日であった。
　このときの入院でも、トシちゃんの病状には病院側から厳しい見通しが伝えらえていたように思う。１週間くらいの命ではないか、と言われていたと思う。なるべく家で死なせたい、という意向を私は病院には伝えていた。
　しかしトシちゃんは何とか生き続けた。２月の末には、我が家で１階に１部屋を増築した。その新しい部屋の窓際に、Ｑちゃんとともにトシちゃんのケージを持ってきた。今までは２階であり、ケージに入ったトシちゃんは外の世界を見ることができなかった。１階の窓際に連れてゆくことにより、トシちゃんは狭いながらに外の世界を見ることができるようになった。そのことがトシちゃんには嬉しかったような気がする。
　トシちゃんの状態は緩やかに下降線をたどっていたように思う。体重も次第に落ち、２Ｋｇを割るようになった。それでもトシちゃんは生きようとする意志が強かった。１日おきくらいに点滴に連れてゆく日が続いた。無理と思っていた新学期の時期になっても、何とか持ちこたえた。
　私の記録では、トシちゃんは４月１７日に痙攣を起こしている。液体の固形食糧を与えていて、痙攣を起こした。すぐに病院に連れて行った。この時の痙攣はなんとかすぐに収まった。
　病気からして、末期になるとトシちゃんに痙攣がおきるのは病院から説明を受けていた。いよいよ悪くなってきた、と理解した。
　それでもトシちゃんは、しばらく痙攣も起こさずに持ちこたえた。毎日２回、私がトシちゃんに流動食を与える日々が続いた。
　トシちゃんに再び痙攣がおきたのが、５月２７日（火）の朝である。職場に出る途中の朝に、トシちゃんを動物病院に連れて行った。病院で預かるとこちらで看取る可能性が高いと言われたが、入院でお願いした。
　トシちゃんは６月１日（日）に退院した。が、このときの入院が最後の入院となった。退院したのは、入院の必要がない、ということではなく、もう打つ手がなかったからである。
　６月５日（木）の夜、トシちゃんには軽い震えがあるようにも見えた。このまま死ぬのではないか、と心配した。
　６月６日（金）の朝、トシちゃんにあえて流動食を与えるかどうかと迷ったが、昨夜の感じほどには悪そうには見えなかったので、食糧と水分を与えるために強制給餌をした。しかし最後の方でトシちゃんはあまり動かなくなってきた。
　トシちゃんに点滴をするためにそのまま動物病院に連れてゆくことにした。トシちゃんを籠に入れ、カミさんの車で駅まで送ってもらった。その籠の中の顔を見たのが、私にとってはトシちゃんの最後だった。その１時間後に、トシちゃんは息を引き取った。

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