テレビ猫の遺骨　 (2009/12/06)

　テレビが死んだのは今年の１０月３０日だった。東松山のペット霊園で次の日に火葬した。テレビ猫の遺骨は骨壷に収め、テレビ猫が死ぬときにいたケージの中に置いておいた。当初、２週間ほどして庭に遺骨を埋めるつもりだったが、延び延びになっていた。
　延び延びになっていた理由はいくつかある。
　第１は、私がずっと忙しく、日曜といえども休めなかったことである。時間からすれば大したことはなかろうが、なかなかその気になれなかった。
　第２は、埋めるべき庭は荒れていて、草が生い茂っている。だから埋めるとすると草取りから始める必要があった。なかなかその態勢にはなれなかった。
　かくしてテレビ猫の遺骨は、もとのケージの中で１カ月ほど過ごしたのである。
　１２月３日、例年のように庭屋さんが来た。わずかな庭木の手入れが仕事であるけれど、地面の草も刈ってくれるのが常だった。寒い時期に草を刈ってしまうと寒々とするので、実は私は草を刈ることには消極的であるけれど、ともかく今年も庭草、ほとん雑草を刈ってもらった。
　草を刈ると草の中に紛れた小さなシャベルも出て来るのが常だった。息子が土いじりをしてシャベルを持ち出し、どこかの草の下で分らなくなるのである。
　本日、草を刈った庭を眺めると、案の定、園芸用のシャベルが出てきた。これで土を掘って、テレビ猫の遺骨を埋めようと思った。
　ちょうど昼頃、庭の隅の方に小さなシャベルで穴を掘った。その辺りには、既に死んだオスの赤白、メスのトシちゃんの遺骨が眠っている。
　遺骨を撒く穴を掘ると、２階に行ってテレビ猫の遺骨のあるケージをあけ、水と食糧を供え直して線香を炊いた。家の仏壇に供えてあった古びた花を供えた。しばらくして骨壷を取り出して庭に出た。まず線香をあげた。骨壷をあけて穴の中にお骨を撒き、穴を埋め直してから拝んだ。

　このサイトの以前の記載を見ると、テレビ猫を家の中に置くようになったのは２００６年の１１月のようである。つまりテレビ猫は３年近く、私の部屋にいたことになる。家に置くようになったとき、テレビ猫は既に弱っていた。すぐに死ぬのではないか、と私は思っていた。
　しかしテレビ猫は、案に相違してよく食べて、しばらく元気だった。
　テレビ猫が悪い病気を持っているのは最初から分っていた。たぶん猫エイズか猫白血病を病んでいる。だから他の猫と接触させないために、ケージに押し込めたままだった。
　猫を病院に通わせると切りがない面がある。お金も労力も、である。だから冷たい言い方だが、この猫は寿命に任せようと思っていた。多少悪そうでも動物病院には連れて行かなかった。
　しかし今年の２月頃、テレビ猫は本当に元気がなくなった。何も食べずに猫トイレにしゃがみ込んで動かなくなった。そのまま死にそうに思えた。
　死ぬに任せようと思っていた猫ではあるが、長く一緒にいた猫である。死んでほしくはなかった。この猫を最初に動物病院に連れて行ったのは２月２２日である。この日はニャンニャンニャンで猫の日だという。
　検査の結果、テレビ猫は猫エイズであることが分ったが、驚かなかった。何の感染症にもなっていないのは不思議なくらいである。ただ、人間も同様であるが、猫は猫エイズそのもので死ぬ訳ではない。テレビ猫の場合、貧血がひどく、腎臓と肝臓の機能が悪かった。この種の感染症にかかった猫によくあるパタンである。
　それから時折の病院通いが続いた。良くなったり悪くなったりの繰り返しだったが、秋口になると食糧を自発的には取れなくなった。そこで流動食で強制給餌をするようになった。
　小康を得たと思ったテレビ猫が今までにない叫び声をあげたのは１０月初めのことである。私は内臓が悪くて叫んだのかと思ったが、次の日に病院に連れてゆくと、腰骨を骨折したのだという。交通事故でないと考えられない、と獣医さんは言う。たぶんケージ内の上下移動をしていて「事故」にあったのだろう、と思った。
　この猫の寿命を考えると、下半身不随になることを覚悟してそのままにすることを動物病院は進めた。脊椎の神経外科的な手術をすると、感染症の恐れもあり、また費用もかかる。
　費用はかかっても手術を受けさせよう、と判断した。今までずっと構わなかったテレビ猫である。費用がかかるから処置をしない、などとはいえない。
　手術は成功し、ふらふらしながらもテレビ猫は歩けるようになった。しかし便を自分で出せなくなった。私が日に２度、強制的に排便させるようになった。
　骨折はなんとかなったが、しかしやはり肝臓、腎臓の状態は悪くなった。
　他の猫も同様であるが、テレビ猫は強制給餌を嫌がった。しかし死ぬ前の日には、強制給餌に抵抗する力も弱くなったように思えた。可哀想だから、もう強制給餌は止めたい、と私は動物病院で話した。
　病院から戻ってケージに戻すと、テレビ猫は私に近づいてきた。強制給餌をすることなく、私は膝の上にテレビ猫を置いてなでた。
　テレビ猫が死んでいるのを見つけたのは、次の日の朝である。

　テレビ猫の外見は死んだ赤白に似ていた。赤白は口の周りが白く、カールおじさんのような愛嬌のあるオス猫だった。テレビ猫は赤白から比べると小ぶりであるが、面相はよりいかつい。それでも頭の中で、私はテレビ猫を「赤白」と呼ぶことがあった。

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