ももひき (2001/01/30)

　今年の１月中旬のある日の昼頃、郷里の母から電話があった。出てみるといきなり、「高島屋で良いズボン下を売っている」という。冬は寒くてズボン下がないと身体に悪い、という。
　私は冬でもズボン下、所謂ももひきをはかない。特にももひきをはかない人生哲学がある訳ではないけれど、普段に生活して気がつくと冬になるのが常であるから、身に付けるものに特に劇的な変化はない。いよいよ寒いとなったらセーターを着たりコートを着込む。思えば母は、長い間私にももひきを着ろと説教してきた。が、私も長いことももひきをはくことを拒んできた。
　電話を受けてやや腹が立ち、「そんなことのために、わざわざ電話したの？」と私が言う。だいたい高島屋でなくても、イトーヨーカ堂でもよいではないか？　しかし素材を電話で確認したところ「ズボン下は高島屋がよい」という。母はカミさんに電話を代われという。私に代わってカミさんが高島屋のももひきの講釈を受けたようだ。
　午後になって私の考えがやや変わった。私の身を心配してくれる人がいるというのは有り難いことなのに、わざわざは撥ね付けることはないではないか。そう思って母に電話し、「明日、高島屋にズボン下を買いに行く」と伝えた。
　たぶん次の日、家族４人、つまりカミさんと娘２人と一緒に大宮の高島屋に向かった。家族で大宮に買い物に行くというのは、クレヨンしんちゃんの野原一家のような風情である。母の言う高島屋とは日本橋かも知れず、同じ商品が大宮の高島屋にあるかどうかは分からない。が、わざわざ日本橋まで行く気にはなれない。ともかく行ってズボン下を買うことが重要だ。
　高島屋は大宮の東口にある。私は大宮での買い物はほとんど西口でしているので、東口に出るのは久しぶりだった。
　ズボン下を買うつもりが、まずコートに目が止まった。適当なのを試着して買った。その後でズボン下を売っていそうな階を探しながら最上階まで行き着いた。見当たらない。もう一度コートを買った階に行き、紳士物の下着コーナーを見つけた。ズボン下といっても種類がある。異なる種類で２つ買った。その後、セーターの売り場で目に付いたセーターを１つ買った。この日、結局私が身に付けるものだけを買った気がする。
　帰りがけに食事をしようと思った。お好み焼き屋に行こうという私の提案にみんな「いいよ」という。何年も前、卒業生と一緒に東口の飲み屋街でお好み焼き屋の２階で食べた記憶がある。その同じ店だったかどうか、「いわい」というお好み焼き屋を見つけた。１階のテーブルに案内され、お好み焼きやら焼きうどんを４人で食べた。喰った量が多かったせいか、４人でファミリーレストランに入るより高かった。
　お好み焼き屋を出た後はどこにも寄らずに帰路についた。
　後でカミさんに聞いた話、実は家にも私用のズボン下があったという。私がはこうとしないのでそのままになっていたらしい。
　以後、少なくとも寒い日にはズボン下をはいている。はいているのがあの日高島屋で買ったズボン下なのか、もとから家にあったズボン下なのか、私は知らない。

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