猫のＱちゃん　 (2006/08/03)

　Ｑちゃんとは、６月初旬に庭で捕獲したオス猫のことである。ある日、図体がやや大きいこの猫が我が家の庭に現れた。庭猫たちはこの猫の方を一斉に見ていたが、追い出そうとするでもない。近づこうとするでもない。一定の距離をとって眺めている。ひどく食糧が欲しそうだったのであげてみた。Ｑちゃんはよく食べた。そのうちにいなくなるかと思ったが、何時までも我が家の庭に留まった。次の日になっても庭にいた。放っておいてもこの庭に居つきそうであるので、捕獲した。この猫がいると他の庭猫たちが困りそうに思えたことが捕獲した最大の理由である。庭猫たちが近づこうとしないのは病気を持っているせいかも知れず、他の猫に感染するのもまずい。
　捕獲して動物病院に連れてゆくと、案の定、猫エイズに感染していた。口が妙に臭いのであるが、エイズ特有の口内炎で歯茎の箇所に炎症がある。このままだと食べられなくなる、と医者はいう。
　ひょんなことから、この猫にはＱちゃんという名前がついた。
　１〜２週間を間隔として、それ以後、Ｑちゃんを動物病院に連れて行っている。家ではインターフェロンと抗生物質の粉薬を与え、病院では時折注射をうつ。

　Ｑちゃんのことは私の２階の部屋のケージの中に閉じ込めて飼っている。他の猫たちが部屋に同居しているので、感染を恐れ、ケージから出すことができない。幸い今のところ、Ｑちゃんはあまり身体を動かす風はなく、ケージの中で寝ることでほぼ満足しているように見える。
　医者の表現を使えば、Ｑちゃんは「治療に協力的」である。医者につれてためにカゴにいれるのにも苦労しない。食事に混ぜると薬もよく摂取する。ケージの中でも騒ぐことはない。
　多かれ少なかれ猫は抜け毛が多い。Ｑちゃんは特に多く、抜けた毛が身体に残っている。通常の猫は口で絶えず身体を舐める。しかしＱちゃんは口の粘膜がダメになっており、自分では舐められないのだと医者は言う。そこで猫用のブラシをかけてあげることを勧められ、猫用のノミ取り櫛を医者から２つもらった。家に櫛を持ち帰ると、「漫画のと同じだ」と娘がいう。漫画とは、大島弓子の漫画だろうと思う。
　そこでＱちゃんのことを時折、ケージから出して櫛をあててブラッシングする。Ｑちゃんは私が触るに任せておとなしくしている。構ってもらえるのがうれしそうに見える。Ｑちゃんがあまり動かないのは、具合が悪いせいか、生来そのような猫なのか、その辺は分からない。

　猫食糧売り場を眺めると、ペットの身体を拭くための紙のタオル（ウェット）というのを見かけた。試しに買ってきてＱちゃんの身体をそのタオルで拭いてあげた。Ｑちゃんは気持ちよさそうに身体を伸ばし、時折私の足に爪を立てる。Ｑちゃんには身体中がややベタベタした感じがある。具合の悪い猫の特徴と思う。湿ったタオルで拭くことで、毛にいくぶんサラサラ感が出た。

　ケージに閉じ込められたＱちゃんはいつも狭い場所で横になっている。それで幸せかとも疑問に思う。しかしこの部屋はいつもエアコンが入っており、気温でのストレスはないだろう。８月の今、外は梅雨が明けてひどく暑くなった。その暑さの中にいたらＱちゃんは死んでいただろう。
　猫は何事もない、平凡な日々を送りたいのだという人がある。進化的に考えれば確かに、猫は種として、子孫さえ残せればよいはずだ。何事もない平凡な日々を送れればよいのは人間も同じかな、と考える。

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